2011年6月7日火曜日

神経内注入(1)

僕は上下肢の末梢神経ブロックは超音波ガイド(US)と神経刺激ガイド(NS)の両方を併用しています.坐骨神経ブロックを膝窩部で行うと,必ず神経内注入になります.神経刺激器を0.5 mAに設定して,刺入しています.針先が神経に当たっても,全く筋収縮はでません.神経上膜を貫いて,ようやく筋収縮が始まります.そこで局所麻酔薬を注入すると,神経が膨らんでいき,脛骨神経と総腓骨神経の二つに分離したり,どちらかの成分が裂けていく画像が見られます.全例,MIAによって深鎮静でブロックを行っています.それでも今まで神経学的合併症を経験していません.そこで神経内注入について,考えてみたいと思います.

まずは,NSによる末梢神経ブロックがこれまで安全であったかを考えたいと思います.末梢神経ブロックによって6ヶ月以上持続した神経後遺症の頻度は1000 blocksにつき0.4(Reg Anesth Pain Med 2009;34:534-41)と低く,これまでの末梢神経ブロックは安全に行われてきたと言えます.神経刺激ガイド法では,通常0.2-0.5 mAで最低刺激閾値が得られたところで,局所麻酔薬を注入します.<0.2 mAでは神経内注入の可能性があるから局所麻酔薬を注入してはいけないというのが常識となっています.

Bigerleisenらは腕神経叢ブロック鎖骨上アプローチで神経刺激の最低刺激域値と神経内注入の関係を超音波画像で調べています.被験者の54%で最低刺激域値が0.2-0.5 mAでも神経内注入が起き,10%では> 0.5 mAでも神経内注入が起きたとしています.結論として,最低刺激域値が0.2 mA未満では神経内穿刺が起きると言えるが,0.2 mA以上であっても神経内穿刺は否定できないとしています.この論文では,神経内注入が起きても合併症は起きていません(Anesthesiology 2009;110:1235-43).

この文献から言えることが,我々が腕神経ブロック鎖骨上アプローチを神経刺激ガイドで行ってきた中で,かなりの症例で知らず知らず神経内注入を冒しているということです.

(ただし,個人的な意見としては,鎖骨上レベルでの腕神経叢は神経内注入は危険だと考えています.その理由は追々,説明します.)

5 件のコメント:

  1. 先生、教えてください。
    私は神経周膜をつらぬいて薬液を注入しています。
    神経周膜のすぐ外側に鋭針先をおいて注入を始め、そのまま進めていくとそれまで針に対して凹となっていた神経周膜がある時点で針に対して凸となります。この場所で止めて注入を継続しています。神経周膜につつまれた神経束の間に薬液がひろがります。神経刺激に反応するためには神経周膜を貫かないとだめなのですね。
    先日の麻酔学会でケスラー先生が昔のintra neuralは今のintra neuralではないとおっしゃっておられました。神経束に針を入れなければよいのでしょうか?

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  2. 神経周膜と神経上膜は明確に区別しなければいけません.神経周膜は神経線維を直接覆う硬い膜構造物です.これを穿刺するということは,神経束内注入を意味します.それは危険な神経内注入=昔の神経内注入です.

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  4. 鋭針=カテラン針を使った神経束内注入は,神経線維を切断する危険性があるので,とてもお勧めはできません.神経内注入を検討した論文は通電刺激針=鈍針であること.神経内注入であっても神経束外注入であるのです.その点には充分気をつけて,神経内注入を読んでください.

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  5. ありがとうございました。

    神経上膜と周膜を混同しておりました。
    神経上膜で行っておりました。
    ご指導ありがとうございました。

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