2012年4月21日土曜日

どれくらいで技術は落ちるか?

超音波ガイド神経ブロックの技術を維持するには,どれくらいサボってしまうとだめなのだろう?

どうして,そんなことを考えるようになったのかと言えば,どうも自分の神経ブロックの技術が落ちているからだ.藤子先生に,勝負画像に一発で針を描出するようになれと、口酸っぱく言い続けた自分が,一発で画像に針を描出できない.これまでに全国の5人の麻酔科医を受け入れて,3ヶ月間のトレーニングに付き合ってきた(旭川医大のO先生は1ヶ月).彼らがいる間は,自分はほぼ手技をすることがなかった.しかし,彼らが去った後,自分で超音波ガイド神経ブロックをすると,物の見事に一発で画像の中に針を描出させていた.それなのに,藤子先生が去った後の自分は駄目だ.恥ずかしいくらい技術が落ちている.ウィレナに「これが日本の神経ブロックだ.」と言わしめるような手技を見せていない.

よく考えると,これまでは3ヶ月研修後,1-2ヶ月間隔を開けて、次の研修3ヶ月を受け入れてきた.その間は、自分の技術は落ちなかった.これまでと違っていたのは,旭川医大のO先生と昭和大学の藤子先生の間には,全く間隔が空いていないということ.つまり僕は4ヶ月,ほぼブロックをしてこなかった.それを考えると,4ヶ月,超音波ガイド神経ブロックをサボると技術は落ちるのではないかと仮説を立てたくなる.そして,4月に入り21日が経とうとするのに,未だに勝負画像に一発で針が映ってこない.失ったものを取り返す努力は並大抵ではないということがわかる.教育プログラムに参加した人をみると,一ヶ月に120から130本ペースでブロックをして,だいたい1ヶ月半から2ヶ月(経験数ゼロから始めたK先生と藤子先生は少し遅かった・・・)で勝負画像に針を一発で出すようになっていた.とうてい,このペースで僕一人がブロックをするのは無理なので,当分の間,技術が落ちたままだろう.

外傷で腕から大出血して暴れ狂う患者に暴れ狂った状態のまま,鎖骨下腕神経叢ブロックをして黙らせた(局所麻酔中毒にしたわけではない,鎮痛で落ち着かせた).腕を脱臼し,腕が挙上した状態のまま,座ることも寝ることもできない患者に立ったまま,腕神経叢ブロックをした.こうした神経ブロックは勝負画像に一発で針を描出させる能力があってこそ,できたもの.しばらくは,こんなことはできない・・・orz.いつ元に戻るだろう?

2012年4月20日金曜日

富国日本、サヨナラAA先生

富国日本を担うAA先生が、そのお努めのため、今日で僕との珍コンビを終了。彼女とのコンビにあぐらをかいていた自分。感謝でいっぱい。今度は、しっかりしなきゃと、心してます。AA先生の後は、僕を慕って?、いやいや、更なる飛躍を求めて、ここに来てくれたM先生。今日は患者さんの引き継ぎで、賑やかそうでした。M先生にも超音波ガイド手技を教えねばならず、これから大変です。

2012年4月17日火曜日

Don't make the skin awake to the needle insertion.

神経ブロックの教育プログラムを休止してから,医局員の数人にブロックを教えています.超音波ガイド神経ブロックで初心者が冒しがちな間違いを,先日取り上げました.その中でも,もっとも手技に影響を与える間違いは,皮膚に針の刺入を気づかせてしまうことです.つまり,針の刺入と同時に皮膚が動き,その結果として,プローブが動いてしまう.そうなると,勝負画像とは全く異なる画像になるばかりか,針も全く映らない.ここが直らないと,まともな手技にならない.皮膚に針の刺入を教えてしまう原因はフォームが悪いからです.つまり,姿勢.効き目のほうに重心がかかるような姿勢をとり,できるだけ身体の各部を固定しておくとよいでしょう.

2012年4月13日金曜日

Wireena先生との一週間

Wireena先生と一週間,病院ではずっと一緒にいます.英語のアウトプット練習にはものすごくいいです.この一週間で自分の英語のアウトプットが異常なくらい上達してくることに気づきます.もちろん,うまく表現できないこともあります.それでも,どんどんアウトプットしていくことで,英語がどんどん上達していきます.アウトプットが増えると,自然とヒアリング能力もあがります.

2012年4月12日木曜日

CFNBの落とし穴

周術期抗凝固療法の重要性から,人工膝関節置換術で持続大腿神経ブロックを取り入れる施設が増えていると思います.学会でも耳にするのは,関節可動域が大きくなるとか,リハビリが進む,もう片側の人工膝関節を患者がすぐにやってほしいと言うようになったと,良いことばかりが多です.ただし,やはり注意すべき点もあります.The Knee 16 (2009) 98-100で,持続大腿神経ブロックで大腿四頭筋の筋力低下により転倒し,創離開や人工関節周囲で大腿骨骨折を起こした5症例を報告しています.

3年間で3000件の人工膝関節術を行っている施設で,92%を硬膜外麻酔でこなし,ここ最近の流れから8%(250例)に持続大腿神経ブロックを行いはじめた,いわゆる持続大腿神経ブロックを導入開始してしばらくした施設からの報告です.

薬液は1回注入で0.5%レボブピバカインもしくは0.2%ロピバカイン15-20mlを使用していますが,持続大腿神経ブロックのレシピは書かれていません.discussionでは多くの文献にあるようなレシピを使っていたとは記載があります.1例にはクロニジンも添加しています.

60歳代2人,80歳代3人で特に合併症をもった患者ではありません.術後1-2日目に転倒をしています.状況は,シャワー中,ベットから起き上がったとき,トイレ中もしくはトイレに行こうとして.意識レベルが立ち上がった瞬間に落ちて転倒したわけではありません.つまり,持続大腿神経ブロックが原因ということ.そして,注目すべきはBromage scaleが全員,0もしくは1であったことです.そんなにmotor blockに関して,心配いらないと判断される状況だったわけです.

筆者らは,「非ブロック側の下肢が充分に動くために,まだブロック側は筋力が低下し,関節の固有感覚も戻っていないにも関わらず,患者が介助なしに歩けると間違った自信を持ってしまう.」と警告しています.こうしたトラブル以降,クロニジンは禁止,彼らは0.025%レボブピバカインで持続注入,ベットサイドに転倒に関する注意喚起のボードを設置,術後48時間は介助なしでの歩行を禁止,外科医とリハビリスタッフが運動機能が完全回復したと判断するまでは術後48時間内に動かさないように医療者を教育,運動機能が完全に戻るまでスプリント装具を装着,など工夫をされているそうです.

金鯱病院のH先生が今,持続大腿神経ブロックの導入に奮闘されていますが,これがよいアドバイスになればと思います.もう彼女と一緒にブロックをするのも,あとわずかです.

2012年4月11日水曜日

伏在神経ブロックの現状(3)

伏在神経がどこまで伸びているか,みなさんはご存知でしょうか?伏在神経がどこまで伸びているか調べた論文があります.Iowa Orthop J. 2011;31:231-5.
この論文によれば,16本の伏在神経(3つの枝)のほとんどは内踝まで終わります.16本中1本だけが足関節を超えて,足にまで分布しています.6%しか,足には分布していないので,足の手術のために伏在神経ブロックをする意味はないといえます.足関節手術までが伏在神経ブロックを行う意味があるわけです.ただし,伏在神経ブロック自体,成功率が高くないので,本当に伏在神経をブロックしたければ,大腿神経ブロックをしたほうがよいといえます.

2012年4月10日火曜日

Transabdominal pain

Wireena先生とTAPブロックの話をしていて,彼女の言葉にpainが登場してくるため,話が混乱.何度聞き直しても,pain. でも,しつこく聞いていたら,painではなく,planeだった.

伏在神経ブロックの現状(2)

2011年に,三つ目のアプローチが報告されています(Acta Anaesthesiol Scand. 2011 Sep;55(8):1030-1).内側顆レベルで,薄筋と縫工筋の腱膜の間で伏在神経が描出でき,この腱膜間に局所麻酔薬を注入する方法です.伏在神経が大腿筋膜を貫く前にアプローチをしており,ブロック成功率は13/14 (92%)とかなり高い.ただ,個人的には,膝蓋下枝infrapatellar branchがでる位置にバリエーションが多く,おそらくこの位置でも膝前面の皮膚の痛みを完全に取ることはできないのではないかと思う.伏在神経ブロックを何の目的でやるのかが大事なところだ.

2012年4月9日月曜日

Wireena先生との1年間が始まりました.

タイのWireena Kampitak先生との1年間がとうとう始まりました.彼女が1年半前に突然,僕にemailをくれたのがきっかけでした.僕の所で末梢神経ブロックの勉強がしたいということでした.僕がかなわなかった留学の夢を彼女は僕に託してきたのでした.彼女の夢を叶えてあげたいと思い,すぐにOKの返事を出しました.ただ,末梢神経ブロックの実習をするだけでは意味がないので,臨床研究を一緒にやろうということを条件にしました.それから1年半,彼女は日本語の勉強を一生懸命して,4月4日に来日しました.1年間という時間があるので,ゆっくりと授業も開きながら,神経ブロックを伝授していきたいと考えています.

一緒に写真を撮って思ったことは,タイでもVサインはするんだ!?ということ.
Vサインは日本のバレーボールのスポコンドラマが起源だと聞いたことがあるのですけど...意外でした.

実は、僕は彼女を一年近く,男性だと思い続けながら,メール交換していました.日本人が全然勝てなかった有名なボクシングチャンピオンでKampitakという人がいたからです.その後,facebookで,Wireenaが女性であることに気づいて,びっくりしました.

医局を国際化させることが,医局の雰囲気をよくします.non-native同士,一生懸命,英語で会話する.医局員が楽しそうに彼女と会話している姿をみて,彼女を連れてきて良かったと思いました.

伏在神経ブロックの現状(1)

大腿神経の末梢枝で,完全な知覚枝,伏在神経をブロックする方法がいくつか報告されています.一番有名なのは,カナダのDr TsuiのSubsartorius approach.これは縫工筋の裏を大腿動脈と一緒に走行する伏在神経をブロックするものです.この方法は超音波画像が認識しやすく,やりやすいのですが,成功率は77%.もう二つ目はperivenous approach.これはご存知にように,脛骨内側顆のやや尾側レベルで大伏在静脈を描出して,その周囲に局所麻酔薬をばらまく方法です.このレベルになると,分枝が激しく,神経を描出することも困難です.

2012年4月8日日曜日

癌手術後の予後に影響するものは...

ASAのニュースレターのSEE Programで面白い問題が出ています.癌手術後の予後を最も改善しそうなものはどれかという問題で,麻薬,全身麻酔,非ステロイド性抗炎症薬,周術期同種輸血の4つ選択肢があります.

麻薬が癌の発生に関与するという直接的な証拠は人ではありませんが,液性免疫,細胞性免疫に影響を与えることは証明されています.動物実験から,周術期の麻薬の使用が癌の再発に関与している可能性が示唆されています.フェンタニルやモルヒネはNK細胞の活動を抑制してしまいます.一方,区域麻酔を全身麻酔に併用することで,乳がんや前立腺癌の再発率が減少します.ただし,十把一絡げに癌とした場合には,区域麻酔の有無で癌再発に有意差があるとは言えません.

非ステロイド性抗炎症薬はCOXを阻害します.癌細胞は宿主の細胞性免疫から逃れるために,プロスタグランディンを分泌します.COX2阻害剤は,癌の増殖や成長因子を抑え,癌細胞のアポトーシスを誘導し,周術期の細胞性免疫の抑制を抑えることで,癌の進行を抑えることが言われています.乳がん細胞にはCOX2が過剰に発現しているので,女性がCOX2阻害剤を長期服用することで乳がんのリスクが減るかもしれないと言われています.米国のFDAは,家族性大腸腺腫症など大腸癌のハイリスク群にCOX2阻害剤であるセレコキシブを使用することを承認しています.

同種輸血は免疫を修飾し,癌の再発に影響があるかもしれないことは,随分昔から知られています(Transfusion-Associated Immunomodulation :TRIM).輸血によりヘルパーT細胞,NK細胞が減少します.TRIMの機序は完全には分かっていませんが,輸血血液内の白血球が関与していることが動物実験の結果から言われています.TRIM自身が癌の発生に関与するのか,TRIMの結果生じる白血球減少が関与するのかは分かっておりません.ただし,癌の再発と輸血の関係はコンセンサスがえられているわけではありません.輸血をした人の予後が悪いという事実があり,それがTRIMによる影響かもしれませんし,輸血をするほど癌が進行した状態の患者というだけ(交絡因子)なのかもしれません.

2012年4月7日土曜日

横浜市立大学医学部附属病院 区域麻酔ワークショップ

横浜市立大学医学部附属病院麻酔科の区域麻酔ワークショップに講師として招待されました.4月ということもあり,新入医局員の先生達向けに,上肢,下肢,体幹のてんこ盛りプランでした.末梢神経ブロックは大腿神経ブロックなど一部はすでに導入され,持続大腿神経ブロックを膝でおこなっているということでしたが,末梢神経ブロック全般をやるには至っていないということでした.各末梢神経ブロックの描出方法を中心にしたのですが,指導的立場の先生方はどんな末梢神経ブロックをどの手術でおこなっていくかという話のほうが興味を持っていらっしゃるようでした.ちょうど,今年の日本麻酔科学会でソノサイトが企業共催で企画しているのが,まさにそれです.つまり,どう末梢神経ブロックを使っていくか?今後,そうした内容の講習会も必要となってくるのでしょう.解剖さえ理解していれば,「自由」.それが僕の答えです.

2012年4月3日火曜日

トラムセット市販直後調査結果

ペインクリニックに従事している先生にはトラムセットの市販直後調査結果(6ヶ月)のお知らせが届いているのではないでしょうか.個人的には,幻聴,幻視を経験された患者がいらっしゃったので,同様の副作用報告がなかったかに興味をもって拝読しました.この調査結果によると,幻聴,幻視の報告が365例中4例ありました.結構あるもんなんだと思いました.

調査結果には乗っていませんが,「使用上の注意」の改訂のお知らせに,意識消失に関する注意喚起があります.4例報告されており,服用開始1週間以内に発生しております.はじめの一週間は,車の運転はしてもらわないようにしたほうがよいかもしれません.

トラムセットにより慢性痛に苦しむ多くの患者さんのQOLが上がっているのを実感していますが,これまで以上に患者さんへの説明が必要かと思いました.まだ読んでいない方は市販後調査結果をに目を通されるとよいかと思います.