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2011年2月28日月曜日

両側TKAで神経ブロックをどう展開するか?

なんと不思議なことに,先日,山形に帰ったK先生とバイト先の麻女三人衆のひとり,自称エス先生から同じ日に,両側TKAのときに末梢神経ブロックをどうするのか尋ねられました.両側TKAでは,さすがに腰神経叢ブロック&傍仙骨坐骨神経ブロックを両側にやるわけにはいきません.居所麻酔薬の使用量が多すぎます.僕は,等比重マーカイン3-4mlで脊髄くも膜下麻酔をして,手術終了時に大腿神経ブロックを行います.もちろん麻薬持続静注もしくはiv-PCAをつけて病棟に帰室させます.こうすることで局所麻酔薬の使用量も減らしながら,末梢神経ブロックを堪能できます.整形外科医の視点に立てば,術翌日に抗凝固療法をスムーズに開始できます.

2011年2月27日日曜日

MIAではお腹の動きに注意しよう

 昨今,麻酔科医の育成において気管挿管して全身麻酔をすることばかりを教育している施設が多いんじゃないでしょうか.自発呼吸を温存と言っても,LMAやigelを挿入して,声門上気道確保を行っていると思います.大学でも,全くの気道確保なしでのdeep sedation を習練している若手はいません.
 プロポフォールとケタミンによるdeep sedation (Minimally invasive anesthesia, MIA)では,僕は全く気道確保することなく手技を行っていきます.ほとんどの場合,全く気道に注意する必要がありませんが,時に顔の位置を調整してあげないと,気道の通りが悪くなってしまうことがあります.そんな場合,僕はみんなが慌て始めるより随分前に「酸素飽和度が落ちてくるよ」と宣言して,みんなが慌て始めたときには「慌てなくてもいい,騒がなくていい」と呑気に手技をやっています.お腹の動きを見ていれば,酸素飽和度の動向は予測がつきます.顔の位置が悪くて,気道が一時的に閉塞したときには,胸とお腹はシーソー呼吸を呈します.気道閉塞が解除されたときには,胸とお腹は強調して動きます.酸素飽和度はその胸腹部の動きより遅れて変化します.患者さんの胸腹部の動きさえ見ていれば,予測がつくわけです.

2011年2月26日土曜日

Minimally Invasive Anesthesiaの利点

 ここまでケタミンについて説明をしてきました.そこでMinimally Invasive Anesthesia (MIA)について紹介してみたいと思います.MIAの利点は何か?Friedbergの立場で言えば,気管挿管をせずに全身麻酔に近い状態で麻酔管理ができる.しかも嘔気嘔吐を抑えられるという2点でしょう.では,我々のように美容形成外科以外の領域の手術麻酔も管理するものにとっての利点は何か?それはMIAを取り入れることで,自然とmultimodal analgesic techniqueを達成している点だと思います.ご存知の通り,今や一種類の鎮痛手段で急性痛管理するのではなく,侵害刺激が伝達される経路:侵害受容体~脊髄後角~視床~大脳皮質に至るまでにおいて,様々な鎮痛薬を使って鎮痛をする.しかも痛覚過敏が生じない時期まで鎮痛をする(preventive analgesia)が急性痛管理の理想となっています.MIAでブロックを行い,その流れのまま,麻薬を投与して気管挿管する.術開始直後からNSAIDsを投与する.こうした一連の鎮痛薬投与の流れによって,自然とmultimodal approachができてしまうわけです.preventive analgesiaについては,その後の急性痛管理体制が各施設各病棟で異なってくるので難しいとは思いますが,術中の急性痛管理の理想に近づくことができます.

2011年2月25日金曜日

高血圧患者にケタミンを使ってもよいか?

 ガイドラインから外れた話をします.他の人の導入を見ていて,入室時に血圧が高いからとケタミンを投与するのをためらっている姿を見かけました.ケタミンは単独投与では確かにノルアドレナリン分泌により血圧を上げます.しかし,プロポフォールを投与して,しっかりと鎮静レベルを確保した段階で投与した場合には,血圧上昇や頻脈になることはありません.プロポフォール,レミフェンタニルによる血圧低下と相殺されて,丁度良い血圧,心拍数になります.以上でケタミンに関する内容はとりあえず紹介終了です.

2011年2月24日木曜日

ケタミンによる喉頭痙攣(2)

 僕はプロポフォールとケタミンによるdeep sedationにおいて,ケタミンによる喉頭痙攣を調べてきました.その発生頻度,Friedbergが言う対処法,対処法による予後について,ずっとデータを収集していました.その内容を,かつて宝塚女優のような名を持っていたR先生が老年麻酔学会で発表をしてくれました.会場から喉頭痙攣が起きるようなケタミンを何故使うのかという質問が出て,彼女は返事に困ってしまったそうです.「ケタミンを何故使うのか?」,実におもしろい質問です.何故なら,今の麻酔科医教育を受けた若手には,その質問が真っ当な質問にしか聞こえないからです.ある意味,この質問は若い麻酔科医にとって呪縛なのです.

 Status of ketamine in Anesthesiologyという本の中で,J.W.DundeeがThe Taming of Ketamineと題して,ケタミンの使い方を解説しています.tameとは飼い慣らすという意味です.教科書に解説されているままのケタミンは例えるならじゃじゃ馬.そのじゃじゃ馬を乗りこなすための術を彼は解説しています.それまでの僕は危機管理学としての麻酔科学をたたき込まれ,扱いにくい麻酔薬など使わないのが常識だと思っていました.「扱いにくい麻酔薬を使いこなせ.」などと教えてくれる人などいませんでしたので,この本の一章を知ったときはとても衝撃的でした.
 ケタミンはbattle field anesthesia,つまり戦場や災害時の麻酔薬として重要です.2005年8月に発生したパキスタン大地震では,ひとつの病院に地震発生から72時間の間に1500人もの患者が送られてきて,149人もの患者がケタミンで手術を受けました.そのときの麻酔記録を検討した論文があります(Anaesth Intensive Care 2006;34:489-494).モニターは数に限りがあり,麻酔科医は五感を駆使し,ケタミンによる自発呼吸を温存した麻酔を行っています.しかも,麻酔科医がケタミンによる喉頭痙攣を念頭にいれて麻酔をしていることが分かります.我々も,いつ起きてもおかしくない大災害においてケタミンを使いこなす術を身につけておく必要があると思います.それがプロフェッショナルであると考えます.これが彼女に質問した先生への僕なりの返答です.

2011年2月23日水曜日

ケタミンによる喉頭痙攣

ケタミンを使用する際に一番,注意すべきなのは喉頭痙攣です.多くは咳き込んだあとに生じます.喉頭痙攣が起きたときは,静注用リドカインの投与で解除できます.早めの対処が大切で,咳き込んだらリドカインを投与してしまうくらいの迅速さが必要です.喉頭痙攣を起こした直後はマスク換気をしても無意味です.逆に刺激を与えて悪化させます.リドカインによって喉頭痙攣が解除されるまで,お腹の動きを観察しながらしばらく待ちます.シーソー呼吸をしなくなったら,もう心配はいりません.酸素飽和度が下がっていても,酸素を口元に当てておけば,しばらくして上昇してきます.

 ガイドラインでは,その発生頻度は0.3%で,主因分析でも特に要因を見つけられなかったと紹介しています.僕のバイト先の病院で,ケタミンによる喉頭痙攣の頻度を後ろ向きに調べたことがあります.発生頻度はもっと高かったです.これは喉頭痙攣を起こす手前の咳き込みまでも喉頭痙攣として位置づけて対処しているからだと考えます.年齢やアトロピン投与の有無,アトロピン投与からケタミン投与までの時間など,特にこれといって要因はみつかりませんでした.鎮静を開始する前に患者さんに,「つばをゴックンしてください.」と頼むようになってから,咳き込みが少なくなった気がします.単に気がするだけなんですが・・・

2011年2月22日火曜日

ケタミンを投与するタイミング

 プロポフォールとケタミンによるdeep sedationでは,僕はプロポフォールをTCIで開始し,刺激をしながらの呼びかけに反応しなくなったところでケタミンを投与しています.プロポフォールはその時点でTCIポンプが示す効果部位濃度を予測血中濃度として設定します.その後,2分程度待てばブロックの手技に入ることができます.刺入点に浸潤麻酔は不要です.ポイントは,プロポフォールTCIでしっかりと鎮静レベルを決めてからケタミンを投与すること.こうすることで,手技に手間取って,ケタミンの効果が切れる15分を過ぎてしまっても,覚醒してくることはありません.ブロック終了後にそのまま全身麻酔に移行することも可能です.プロポフォール血中濃度を就眠濃度より高くしなくてよいのかと言われるかもしれませんが,今のところ,術中覚醒はありません.

2011年2月21日月曜日

ケタミンによる覚醒時の不穏

 ケタミン単独投与では覚醒時に不穏になることがあり,これを予防する目的で,ケタミンにベンゾジアゼピン系を併用することが昔から推奨されてきました.2011年のガイドラインでは覚醒時不穏は希であるので,ベンゾジアゼピン系の予防的投与は成人にはしてもよい,子供では成人よりさらに希であるので推奨しないとなっています.ベンゾジアゼピンの予防的投与として,成人患者ではミタゾラム0.03 mg/kg ivを紹介しています.ミタゾラムの予防的投与により覚醒時不穏を17% (NNT=6)までに減少させられるようです.
 プロポフォールも,ミタゾラムと同様に覚醒時不穏を抑える働きがあります.プロポフォールとケタミンでdeep sedation下に末梢神経ブロックを行った後,そのまま全身麻酔に移行できるというメリットもあります.僕自身の経験でも,この方法で覚醒時に不穏となった患者はいません.ブロック終了後はそのままプロポフォールTCIを継続しながら手術を遂行するため,手術終了時にはケタミンの血中濃度が随分低下したところで,患者さんをj覚醒させているからではないかと考えます.

2011年2月20日日曜日

ケタミン投与前に抗コリン薬を投与すべきか

 ケタミンは患者さんをヨダレまみれにさせてしまいます.僕自身はこれまで,必ずケタミン投与前にはアトロピンを投与してきました.ヨダレが喉頭口に流れ込んで,声帯に付着することで喉頭痙攣が生じるのではないかと考えてきたからです.ケタミンの喉頭痙攣は必ず,咳き込んだ後に発生します.咳き込みが喉頭痙攣のサインと考えてもよいくらいです.しかし,大規模臨床研究から,抗コリン薬を投与しなくてもケタミンは安全に使えることが分かってきて,ガイドラインでは抗コリン薬を予防的に投与する必要はないとしています.

 僕としては末梢神経ブロック後にLMAを挿入して全身麻酔に移行するので,予防的に投与しておくことは意味があると思っています.LMA挿入したら,咽頭の奥までは吸引できません.ヨダレで患者さんがおぼれちゃいけませんからね.

2011年2月19日土曜日

ケタミンと絶飲食時間

 緊急手術でケタミンの解離状態で末梢神経ブロックをしたいときに絶飲食をどう考えるか.ケタミンは気道反射を温存するので,絶飲食が不完全なときにも安全だろうというのがガイドラインの見解のようです.それでも心配という方は,通常の絶飲食の判断でよいと思われます.ただし,1)乳児以外はケタミンと誤嚥の関連性を示す論文はないこと.2)システマティックレビューでも,絶飲食時間と嘔吐,喉頭痙攣,その他の合併症との関連性を見つけられていないこと.3)内視鏡関連の研究でも,絶飲食時間が合併症の発生に関連はないという結論になっていること.以上の3点から,慣例でやっている絶飲食時間をエビデンスはサポートしてくれていないことは知っておいたほうがよいでしょう.

2011年2月18日金曜日

ケタミンの相対的禁忌:頭蓋内圧亢進

 ケタミンの頭蓋内圧上昇作用は教科書にも記載があるので,みなさんもご存知のはず.しかし,実は頭部外傷に対するケタミンの使用は,ガイドラインでは禁忌から外されていることをご存知ですか?プロポフォールやミタゾラムとの併用により頭部外傷では,頭蓋内圧が上昇しないことがすでに証明されています.脳保護目的で頭部外傷で使われていたりします(Anesth Analg 2005;101:523-534, Crit Care Med 2003; 31:711-717).
 脳腫瘍や水頭症ではケタミンも絶対禁忌ではなく,相対的禁忌になっています.最近の文献では,通常の人工呼吸管理下では,ほとんどの患者で頭蓋内圧はわずかしか上昇せず,逆にケタミンの血管拡張作用が結果的に脳潅流を改善させる可能性があることを報告してます.どうやらケタミンに対する頭蓋内圧上昇作用に対する我々の過去の教義は行き過ぎであったようです.

2011年2月16日水曜日

正気(笑気)にさようなら

Anesthesia & Analgesiaの2月号が届きました.The Enigma of ENIGMA-I(ENIGMA-Iの謎)というEditorialを読まれたでしょうか?どうやら笑気の使用を科学的根拠をもってNOとする動きが加速しそうですね.僕が麻酔科医を引退するころには,「僕は笑気を使ったことがあるよ」なんて自慢するようになるのでしょうか.そんなことをいう自分はとうの昔に笑気は使わない麻酔科医ですけど.

笑気に暴露されることで,メチオニン合成酵素が阻害され,ホモシステインが増加する.このことが血管内皮障害を起こして心イベントを増やすそうです.ENIGMA-Iという笑気暴露による長期予後をみたRCTでは,全身麻酔による笑気暴露後,平均3.5年の経過観察で心筋梗塞の発症が増加することが明らかになっています.ただし,心イベントによる死亡率は増えてないので,その部分が議論(題名のとおり謎)になっています.

加えて,笑気使用の弊害として,創感染,重症嘔吐,無気肺,肺炎のリスクが上がることも知っておきましょう.

ケタミンの相対的禁忌:喘息

 ケタミンはこれまで喘息患者に使われてきました.しかし,ガイドラインによれば,喘息患者への使用が安全であることを示すエビデンスがないと・・・.しかも,ケタミンは吸入麻酔薬で喘息小児を麻酔する際の喉頭痙攣のリスクファクターにもなっている.それ故,ケタミンは喘息に対して相対的禁忌になったと書いてあります.しかし,筋弛緩薬を投与して,喉頭痙攣のリスクを回避すれば,重篤な喘息患者の導入には禁忌とはなっていません.個人的には,どっちやねんと言いたい!?最大公約数に受け入れられるためのどっちつかずの記載になった感が否めないですね.

2011年2月15日火曜日

ケタミンの相対的禁忌は?

相対的禁忌としては7点です.救急医療におけるケタミンの使用ですが,参考になります.

1)内視鏡などの後咽頭を強く刺激する処置:喉頭痙攣を起こすリスクが高くなります.ただし,刺激 
 が弱い耳鼻科の処置はOK.
2)気管の手術や気管狭窄を認めるもの
3)狭心症,心不全,高血圧患者:ケタミンによる血圧上昇作用があるため
4)急性肺炎,上気道炎,喘息:喉頭痙攣を起こすリスクが高い
5)脳腫瘍,水頭症など頭蓋内圧亢進患者
6)緑内障,急性眼球損傷
7)ポルフィリン症,甲状腺機能亢進症,甲状腺治療薬内服患者:ケタミンの交感神経亢進作用

注目はすべき点は喘息,頭蓋内圧亢進です.その説明は次回にします.

2011年2月14日月曜日

ケタミンと統合失調症

五所川原の佐藤先生から下記の連絡を頂きました.

完全静脈麻酔の臨床ーDFKによる5,000例の臨床からー松木、石原、坂井編、克誠堂出版、1995
21章、DFKと特殊疾患・特殊状態ー精神分裂病 P115-117によれば,
ケタミンについては、弘前大学グループからDFK麻酔(ドロペリドール+フェンタニル+ケタミン)においていろんな疾患に対して調べたところ、統合失調症患者にも、投与量と他の薬の組み合わせを工夫すれば,必ずしも禁忌にはならないと報告されています.

ケタミンの絶対禁忌は何でしょうか?

 ケタミンの絶対禁忌は何かと聞かれて,頭蓋内圧亢進症例,緑内障なんて言っている人は知識が古くなっているかもしれません.
 ガイドラインによると,ケタミンの絶対禁忌はたった2つ
1)三ヶ月未満の乳児
2)統合失調症患者(内服治療で状態が安定していてもです.)

2011年2月13日日曜日

ケタミンによる解離状態

 ケタミンは視床皮質系を抑制し,大脳辺縁系を活性化すること(解離状態)で,痛み,音,光などの外的刺激に反応しないようにしてしまいます.これは,他の鎮静薬とも全身麻酔薬とも異なる作用です.

 ケタミンによる解離状態は以下のような特徴があります.
1)遁走状態:目を見開いたまま反応がない状態になる.
2)カタレプシー:筋緊張は維持されて姿勢を保つ.しかし,自己を保持する姿勢にしようと無意識に体動が生じることがある.
3)鎮痛:その間は全く痛みを感じない.
4)全健忘:その間は全く記憶がない.
5)気道反射維持:上気道反射は維持される.気道は通っているので気管挿管は不要であるが,時に頭の位置を調整して気道が通りやすいようにしてあげる必要はある.ヨダレがでるので吸引も必要.
6)安定した循環動態:血圧や脈拍が低下することはなく,むしろ軽度上昇する.
7)眼振を認める.
 ケタミンの解離状態は,痛みを伴う短い処置に適しています.つまり,末梢神経ブロックに応用すれば,穿刺に伴う苦痛を除去してあげられます.体動が生じることがあるのでMRI,CTなどの画像診断目的の鎮静には向かないことは麻酔科医として知っておかなければなりません.

2011年2月12日土曜日

ケタミンを使いこなす

 僕は超音波ガイド神経ブロックをする際の鎮静方法にMinimally invasive anesthesia (MIA)を応用しています.MIAは,Barry Friedbergが唱えたアメリカ美容形成外科領域の麻酔方法です.プロポフォールとケタミンと浸潤麻酔使用して,No Intubation, Ne Hear, No Pain, No PONV, and Go Homeを達成させる麻酔法です.浸潤麻酔を末梢神経ブロックに置き換えてしまえば,整形外科手術に応用が利きます.日本の麻酔科医はケタミンを教育されてこなかったために,ケタミン使いこなせない人が多い.しかも,未だに教科書に書かれていることを鵜呑みにしている人がほとんど.
 
 Annals of Emergence Medicineで,2003年1月から2010年11月までの救急医療におけるケタミンの文献をレビューして作られた新しいガイドライン(Clinical Practice Guideline for Emergency Department Ketamin Dissociative Sedation)が載っています.しばらくはこのケタミンのガイドラインを紹介しつつ,私見も述べていきたいと思います.

2011年2月11日金曜日

Ghost Needleの対処(4)

 Ghost Needleの対処の最後です.針のシャフトに直角に超音波ビームを当てる最後の手段は,プローブの皮膚の当てる力を調整して,超音波ビームの角度を変えてしまう方法です.皮膚の軟らかい部分,腹部,鎖骨下窩,膝窩で使えます.肥満患者では,他の部位でも使えたりします.
 おさらいです.Ghost Needleの対処もたった三つ.1)ターゲットを刺入点の反対側に置く.2)刺入点をプローブから離す.3)プローブの角度を変える.たった三つでいいんです.
刺入点の反対側を皮膚に強く押し当てることで,超音波ビームの角度を調整する.

とうとう海外からも依頼が・・・

 別に僕のブログを見て連絡を入れてくれたわけではないのですが,僕の胸部傍脊椎ブロックの論文を読んで,カナダのモントリオール総合病院の麻酔科フェローがブロック実習の打診をしてきました.海外の人が日本で医療の実習を行う場合,日本の医師賠償保険に入る必要があります.今回は1ヶ月という期間でお願いしたいということでしたので,短期の実習のために払う額ではない旨を説明しました.モントリオールならトロントのVncent Chan先生のほうが近いのに・・・名古屋大学病院もNagoya University Hospitalって呼ばれて有名になるのかしら(*^_^*)

2011年2月10日木曜日

K先生のプログラム終了




最後の持続胸部傍脊椎ブロックの様子
山形のK先生の超音波ガイド神経ブロック教育プログラムが終了しました.硬膜外麻酔に頼らない麻酔法を導入したいというのが御施設の部長の意向でした.昨年の臨床麻酔学会のポスター会場で,K先生と共にご挨拶していただいた際,「しっかりと教育してお戻しします.」と返事をしました.プログラム3ヶ月目には名古屋大学の麻酔科医に指導していた姿をみて,その約束を果たせたのではないかと思っています.後は彼なりに努力して,いろんな問題に遭遇しながらも麻酔科医として研鑽を積んでくれたらと思います.

最終的にK先生がブロックした数は以下のようになります.

胸部傍脊椎ブロック(ほとんどカテ入れ) 41例
腹横筋膜面ブロック              60例
腹直筋鞘ブロック               16例
星状神経節ブロック                                25例
腕神経叢ブロック斜角筋間アプローチ     4例
                             鎖骨上アプローチ       9例
                             鎖骨下アプローチ     3例
                             腋窩アプローチ            1例
腰神経叢ブロック                                    11例
坐骨神経ブロック傍仙骨アプローチ         13例
                             膝窩アプローチ           4例
大腿神経ブロック                                     8例
閉鎖神経ブロック                5例
肩関節注入                                            5例
深頚神経叢ブロック                                 2例
スカルプブロック                                      3例
腋窩静脈カテーテル挿入                         9例
腰椎椎間関節注入              25例

プログラム終了認定証第一号

2011年2月9日水曜日

意地悪な質問

 麻酔科医として一歩を踏み出してくれた後輩S先生に意地悪な質問をしてみました.うちでも美人で,結婚前は宝塚の女優のような優雅な名前をお持ちの麻女R先生をダシに使ってしまいました(R先生ごめんなさいm(_ _)m).

僕:「先生は乳がんで手術をうけるとしたら,R先生に麻薬を使った全身麻酔にしてもらいたい?そ 
れとも僕に胸部傍脊椎ブロック併用の全身麻酔をしてもらいたい?」 
S:「へー,傍脊椎って・・・全麻だけでいいんじゃ・・・乳腺にわざわざ,そこまで・・・」

S先生はすでに僕の術中にはまってしまいました.

僕:「ほ~,先生は全身麻酔のみでいいですか~?」
S:「・・・・・・」
横からT部長:「S先生!pnbsiva先生の言葉にひっかけがないわけないだろ!?」

僕:「S先生,もし自分の選択が一年後の自分の乳がんの再発率に大きな影響がでるとしたらどうする?手術までの乳がんの進行具合や術後の治療も同じ条件でだよ.さぁ~どうする?」
S:「へぅ,そんなことあるんですか?」

困惑するS先生に下の図の内容を説明しました.
「後ろ向き研究の結果だけど,ハザード比が0.21だから,全身麻酔と麻薬で乳がんの手術を受けたときの癌の再発率を100%としたときに,胸部傍脊椎ブロックでは再発率が21%まで低下していたことを意味するんだよ.」

尚,RAPM2010;35:490-495では胸部傍脊椎ブロックをしたほうが,がん細胞の浸潤や転移に関わるIL-1βやmatrixmetalloproteinase (MMPs)の上昇が麻薬で鎮痛するより抑えられたと報告されています.

Anesthesiology 2006;105:660-4改変


2011年2月8日火曜日

大腿骨頚部骨折の麻酔

 大腿骨頚部骨折の手術は高齢者が多く,全身麻酔ではなく,脊髄クモ膜下麻酔を選択したくなるときも多いかと思います.しかし,側臥位をとってもらうのに苦痛を伴います.それ以前に手術台に移動するにも我慢してもらうことが多いのではないでしょうか.僕も以前はそうでした.「痛いけど,がんばって移りましょう.」なんて言っておりました.こんな時に役立つのは,大腿神経ブロックや腸骨筋膜下ブロックです.大腿神経ブロックなら1%キシロカイン10 ml,腸骨筋膜下ブロックなら20 ml投与して,5分程度待つと楽に移動や体位変換ができます.注意したいのは,鼠径部で大腿神経を遮断した後に,欲張って腰神経叢ブロックをしないことです.側臥位がとれたからといって,そのまま神経刺激ガイドで腰神経叢ブロックをしようすると失敗します.なぜだか分かりますか?単なるloss of resistanceで腰神経叢ブロックをするのは問題ありませんけどね.

2011年2月7日月曜日

経絡治療を活かす

 実は,僕は経絡治療もできるんです.ペインクリニックで使用する内服薬の多くは副作用として,眠気や全身倦怠感を起こしてくるものが多く,リリカ,ガバペン,ノバミンなどいろいろです.処方したときは元気だったのに,次の受診で,ぐったりとした患者が突然,目の前に現れることもあります.こうした眠気や全身倦怠感で患者さんがグッタリしてしまった時には,内服を中止するのは当然ですが,その時に経絡治療をするのも効果的です.
 膀胱経に対する治療を行ってあげると,その場で元気を取り戻します.膀胱経は経絡図を見ると,頭のてっぺんにまで経絡が走っています.つまり,膀胱経は脳を支配していると考えられています.東洋医学的には,膀胱経の気の詰まりによって,うつ,不眠,元気がないといった症状がでるとと考えるのです.膀胱経への治療(臓腑通治,補強,相克)で,それまで活力のない目をしていた患者さんがいきなり目力のある表情に戻るので,まわりの人はびっくりします.

2011年2月6日日曜日

局所麻酔薬の注入圧が高いとき

 末梢神経ブロックで,局所麻酔薬の注入圧が高いときは神経内注入の可能性があると教科書に書いてあります.しかし,僕の経験から言うと,注入圧が高くなっている原因で圧倒的に多いのは,組織片,血塊による針の根詰まりです.腰神経叢ブロックでは,横突起に針を数回当てたときは高頻度で,針が詰まります.注入圧が高いと感じたら,無理して注入はせず,針を皮膚から全部抜いてフラッシュしてみてください.針が根詰まりしていることに気づきますよ.

2011年2月5日土曜日

神経ブロックはawakeの患者のほうが安全か?

 北米では,末梢神経ブロックを患者と会話できる状態でやったほうがよいということになっています.数年前のトロントであった国際シンポジウムでも,この話題が出て,アイルランドの先生が「超音波画像で見えているし,神経刺激も併用しているのに,awakeでやらなければいけないのか?自分はdeep sedationでやっている」と発言をされていました.これに対して,Vincent Chan先生が「北米では医療裁判という特殊な事情がある.」と答えていました.せめて,神経内注入における注入時痛を確認しておきたいということなのでしょう.日本でも,これに右にならえしている雰囲気があります.
 僕はawakeの患者にブロックをするのは,ペインクリニック外来の患者くらいです.手術麻酔はすべて全身麻酔下もしくはdeep sedationで行っています.deep sedationをするようになったのは,僕が神経刺激ガイド腰神経叢ブロック&傍仙骨坐骨神経ブロックからブロックを始めたからです.0.2~0.5 mAまで刺激を落としながら針を神経に近づけていった時に,患者が動いてTiwchが消失してしまったり,局所麻酔薬注入中に不用意に動かれてブロックが失敗してしまったりした経験をたくさんしたからです.そんなときに,Berry Friedbergのアメリカ美容形成外科麻酔のホームぺージをたまたま見つけました.プロポフォールとケタミンを使ったDeep sedationで患者を鎮静することの利点を知りました.プロポフォールとケタミンによるdeep sedationは僕のブロックの成功率を格段に上げました.この方針でずっと末梢神経ブロックを行ってきましたが,手技が原因による神経障害には遭遇していません.体位による圧迫による神経障害は2人ほど経験しています.患者をawakeでブロックすることに注意するより,病棟ナースに腓骨頭での総被骨神経麻痺(坐骨神経ブロック後)や尺骨神経溝での尺骨神経麻痺(腕神経叢ブロック)にならないように配慮するように伝えることのほうが,よっぽど大切かと思います. 

名古屋大学超音波ガイド神経ブロック教育プログラム第1回打ち上げ

 会津から参加されたT先生の一週間の実習が終わりました.また山形のK先生の実習も残り一週間ということで,打ち上げを行いました.二人が大学の同級生であることは知っていましたが,実は卒業後,はじめて同じ病院で時を過ごしたということでした.いつかは同じ病院で働くことがあるかもしれないと思っていたが,こんなに早くくるとは思っていなかったと二人で感慨深そうに打ち上げの帰り道に僕に話してくれました.そんな再会のチャンスを提供することができたことをうれしく思いました.
 今回の打ち上げは,自称AAツーリストを名乗るほどの企画上手な麻女,AA先生が計画してくれました.AA先生は,インターネット予約特典割引とクーポン券を使って高級ホテルの中華料理を安く食べさせてくれました.彼女の企画能力は秀でたものがあり,この才能だけでも充分稼げるじゃないかと感心してしまいます.彼女はK先生がこちらでの麻酔業務を円滑に行えるように,サポートもしてくれました.彼女なくして,今やこの教育プログラムは成り立たないと言っても過言ではないくらい重要な存在です.そんな彼女を僕は「コンシェルジュAA」と今後は呼びたいです.
左からK先生,T先生,AA先生

2011年2月4日金曜日

たったの3人

 今日,麻酔科の今年度における最後の学生授業で,その担当をしました.僕は一週間,寝る間も惜しんで準備をしました.内容は,痛みの薬物治療について.90分の講義スライドの準備は大変です.学生さんに教科書的な話だけではなく,最新の話もしようと,論文もたくさんよみました.あまりに根を詰めたためか,昨夜には風邪を引いてしましました.桂麻各半湯を服用しつづけ,体調を元に戻して,今日という日を迎えました.配布プリントと小テストを紙袋にいれて,朝8時45分に教室に行きました.みんな,どんな顔をして,僕を迎えてくれるだろうと,すこし期待しながら教室にむかいいました.しかし,教室の扉を開けると,そこには誰もいませんでした.とりあえず,授業の準備をしようと,前の机に配付資料と小テストを置き,パソコンをプロジェクターにつなげました.パソコンを繋ぎ終わっても,まだ誰も来ません.もう授業の始まる8時50分になったというのに.僕は普段からおちょこちょいなので,教室を間違えたのかと不安になりました.このまま誰も来なかったら,どうしようと思い,そわそわしてました.ちょうど,その時,女子学生さん一人が教室に入ってきました.彼女に「誰もこないんだよ.おかしいね」と質問をすると,「今日は今年度の最後の授業だし,今日はこの一コマしか授業がないから・・・誰も・・・」と.仕方なく,僕は彼女ひとりに向かって授業を始めました.授業を始めて30分ほどが過ぎ,非ステロイド性抗炎症薬の話を終えたところで,他に2人の女学生さんが教室に入ってきました.結局,たった3人だけが僕の話を聞いてくれました.結局,この授業に対して,僕は大事な仕事も全部放置して,学生さんのために準備をしたのに,ものすごい低い出席率でした.風邪を引いてしまうほど,根をつめて準備するほどのものではなかった・・・.
 へっ?来年の授業の準備が楽になるからいいじゃないかって?来年はまた全く題名の異なる内容を授業するように言われているんですよね (((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル.

Dr K効果

 超音波ガイド神経ブロック教育プログラムでK先生がきてから,大学の若手が急に超音波ガイド神経ブロックをやるようになってきた.それまでは,ブロックをしてごらんと言ってもやらなかった人が多かったのです.僕の存在意義もここにはないと思っていたくらい,僕はひっそりとブロックをしておりました.K先生がきた当初は,「K先生がブロックするから」というと,みんな「どうぞ」とすんなりと譲ってくれましたが,最近は「半分は僕にやらしてください.」とか,「私がやります.」と返事がかえってくるようになりました.K先生がいい触媒になったなと思う今日この頃です.心理学では,こうした現象を表す用語があるのでしょうか?

2011年2月3日木曜日

超音波画像だけに頼らない

 超音波ガイド神経ブロックで,もう一つ養いたいのは針先からの感触を感じとる能力です.TAPブロックや腹直筋鞘ブロックで予想以上に深く刺してしまった経験のある人は,エイ,エイと力任せに操作して,針先の感触を大事にしていない.Gentle needle manipulationを心がけてください.ターゲットまで針を進めるにしても,皮膚を貫き,皮下組織を貫き,筋膜を貫き・・・神経に到達させるといった感じで,一つ一つの感触を大事にしながら,丁寧に操作するように注意してください.

2011年2月2日水曜日

Ghost Needleの対処(3)

 Ghost Needleの対処の二つ目は,刺入点をプローブから離すことで刺入角度を小さくする方法です.TAPブロック,腕神経叢ブロックの鎖骨下アプローチ,膝窩部坐骨神経ブロックでこのテクニックを僕はよく使います.
 膝窩部坐骨神経ブロックでは,プローブからかなり離れた刺入点,大腿二頭筋側面を刺入点とすると,超音波ビーム方向に90度で針を刺入することができます.ただし,刺入点が大きく離れてしまうので,ビーム面に針を乗せるには慣れが必要です.
 傍脊椎ブロックは単回注入ではよいのですが,持続カテーテルを挿入では注意が必要です.特に,呼吸器外科手術の後側方開胸では刺入点が外側すぎると,カテーテルが術野の邪魔になることがありえます.事前に呼吸器外科医と仲良くして,ほどほどに許してもらえる刺入点を把握しておくとよいでしょう.彼らの手術が長引いても,「お疲れ様,大変な手術でしたね.」と絶えず良い人間関係を築き上げておくこともポイントでしょうか.

2011年2月1日火曜日

情動という術後鎮痛

 情動によって痛みの程度が変わることが知られています.ハーバード大学のヘンリー・ビーチャーが第二次世界大戦中に、負傷兵ひとりひとりに痛みを尋ねたところ,負傷兵の3人に2人が痛みを訴えず,鎮痛薬を欲しいと言わなかったそうです.負傷兵が神経学的に異常を来したわけではなく,痛みを訴えない彼らを無麻酔で手術を施そうとすると痛がったそうです.この現象は名誉の傷を負ったことで家に帰ることができる,死なずにすむという安堵感から痛みの感じ方が弱まったのだと言われています.
 良くテレビで、腕のよいと評判の外科医が術直後に患者の病室を訪問しているところが放映され、目にしますが,患者がケロッとしていることがあります.とりわけ特別な術後鎮痛をしているふうにもみえません.その表情は,自分の経験からすると,術後1日目の患者の表情とはかけ離れている感があります.しかし,痛みの程度が情動で変化することを知れば納得のいくことかも知れない.患者自身がテレビに出るほどの名医に自分は手術してもらえたという安堵感から,術後痛の程度が変わってしまうのかもしれません.確かに抜管直後から執刀医に感謝を述べている患者さんは,術後訪問しても痛がっていない気もします.となると,術前訪問の段階で執刀医を患者の前で褒めておくことも,術後鎮痛のひとつの手段になるかもしれません
 しかし,昔のことですが,「この手術は痛がらんよ.」なんていう外科医がいましたが,これまで僕は「痛覚のない人は無痛無汗症以外ありえません.」と切り返していたんですが,実は彼は患者に評判のよい名医だったのかも!?