2011年2月1日火曜日

情動という術後鎮痛

 情動によって痛みの程度が変わることが知られています.ハーバード大学のヘンリー・ビーチャーが第二次世界大戦中に、負傷兵ひとりひとりに痛みを尋ねたところ,負傷兵の3人に2人が痛みを訴えず,鎮痛薬を欲しいと言わなかったそうです.負傷兵が神経学的に異常を来したわけではなく,痛みを訴えない彼らを無麻酔で手術を施そうとすると痛がったそうです.この現象は名誉の傷を負ったことで家に帰ることができる,死なずにすむという安堵感から痛みの感じ方が弱まったのだと言われています.
 良くテレビで、腕のよいと評判の外科医が術直後に患者の病室を訪問しているところが放映され、目にしますが,患者がケロッとしていることがあります.とりわけ特別な術後鎮痛をしているふうにもみえません.その表情は,自分の経験からすると,術後1日目の患者の表情とはかけ離れている感があります.しかし,痛みの程度が情動で変化することを知れば納得のいくことかも知れない.患者自身がテレビに出るほどの名医に自分は手術してもらえたという安堵感から,術後痛の程度が変わってしまうのかもしれません.確かに抜管直後から執刀医に感謝を述べている患者さんは,術後訪問しても痛がっていない気もします.となると,術前訪問の段階で執刀医を患者の前で褒めておくことも,術後鎮痛のひとつの手段になるかもしれません
 しかし,昔のことですが,「この手術は痛がらんよ.」なんていう外科医がいましたが,これまで僕は「痛覚のない人は無痛無汗症以外ありえません.」と切り返していたんですが,実は彼は患者に評判のよい名医だったのかも!?

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