2010年12月31日金曜日

超音波ガイド神経ブロックの穿刺法(4)

 平行法で重要なのは,針にプローブを合わせることではなく,プローブに針を合わせること.そのためには,プローブをしっかりと固定し安定させた状態で,穿刺前に描出した超音波画像上に一発で針が描出できる刺入点を選び,穿刺後はプローブを微調整するだけということを理解していただけたでしょうか.次に針の運び方について話をしましょう.

 まずはこの動画を見てください.
プローブに針を合わせるという意味を,針をいろいろ動かして描出すればよいと誤解してはいけません.針はあくまで,ターゲットに向かって進めるか戻すかしかありません.初心者がよく冒す間違いは,この動画にあるように刺入点を中心に左右に針を振ることで描出させようすることです.頭の中で超音波ビーム面をイメージして,針を超音波ビーム面に乗っけるように刺します.ほとんどの人は正しい刺入点で刺入しても,超音波ビーム面に対して少し交差するように,つまり,平行法に限りなく近い交差法で刺しています.自分はどちらにずれて刺す癖があるのかを鶏肉を使って把握しておくとよいでしょう.

超音波ガイド神経ブロックの穿刺法(3)

 超音波ガイド神経ブロックの平行法では,針にプローブを合わせるのではなく,プローブに針を合わせるのだと述べました.それにはどうすべきかをお話します.たった3つのポイントに注意すれば,プローブに針を合わせた平行法を行うことできます.たった3つのことです・・・
平行法にとって重要な3つのポイントとは,
 1)安定したプローブ固定
 2)正しい刺入点
 3)プローブの微調整

まずはこの動画をみてください.


 術者は安定したプローブ固定はできています.プローブを患者の身体に当てるだけではなく,自分の手や前腕もプローブと一緒に当てることで,プローブをしっかりと固定しています.しかし,針の穿刺前に正しい刺入点を選ばずに針を刺し,穿刺後にプローブを動かして針を描出しようとしています.正しい刺入点とは,穿刺直前に自分が「よし!この画像でブロックするぞ!」と決めた超音波画像に一発で針が描出されてくる刺入点のことです.超音波ビーム面に針を乗せなければ,針は描出されませんが,超音波ビーム面の厚みは1 mm程度しかありません.そんな薄い超音波ビーム面に針を乗せるには致命的なほど,術者は大きくプローブを動かしてしまっています.結局,術者は針を描出できませんでした.

次に僕の手技をみてください.同じ患者さんです.

穿刺前に正しい刺入点を見極めて,針を穿刺しています.その結果,ほとんどプローブを動かすことなく,針を描出しています.針を描出するためのプローブ操作としてART(A:Alignment, R:Rotation,T:Tilting)がありますが,その動きの幅は端から見ていて分からないほどわずかなのです.

2010年12月30日木曜日

超音波ガイド神経ブロックの穿刺法(2)

 超音波ガイド神経ブロックの穿刺方法,平行法について考えたいと思います.すでに超音波ガイド神経ブロックのテキストを読んだ先生達は,平行法では針を描出するためにプローブを操作するものだと思っていませんか.つまり,多くの先生は“針にプローブを合わせている”はずです.実は,この理解が大きな間違いで,針の描出に時間を要してしまうのです.針を穿刺後にプローブを操作して針を描出するというスタンスは四肢の末梢神経ブロックでは問題ありません.しかし,胸部傍脊椎ブロックをはじめ,ペインクリニックで行うような超音波ガイド神経ブロックではピンポイントで針先をターゲットに当てる必要があります.プローブを当てて,ターゲットを綺麗に描出させたら,その画面に針を一発で描出させる必要があるのです.つまり“プローブに針を合わせなければならない”のです.そのことに気付かずに安易にペインクリニックで超音波ガイド神経ブロックを始めると,辛酸を舐めることになります.

神様降臨

 書かねばならない依頼原稿が残っていました.原稿を書く際に段落毎に少しずつに書き貯めて,最後に書き集めたものをひとつにまとめて原稿を書き上げたほうがよいと指南書にはあります.僕は,そういうちょこまかと書き貯めるのが苦手で,書くときは集中して一気に書き上げるタイプです.だから,気が乗らないと原稿締め切りが来ても原稿が書き上がっていないことがあります.気が乗り始めると,それまでのダラダラした状態が嘘のように書き始めます.文章が頭の中で全くでてこない状態から頭の中で湧き出てくる状態に切り替わった瞬間を僕は「神様が降りてきた」と言っています.神様が降りてきた後の集中力はもの凄いものがあります.大学で夕方6時にパソコンに向かって原稿を書き始め,神様が降りてきたと思いながら一気に書き続け,次にパソコンから顔を上げたら,夜中の1時になっていたこともあります.その7時間は自分にとって1時間程度にしか感じていなかったのです.と言うことで,昨夜から神様が僕に降りてきて,依頼原稿を一気に書き上げました.これですっきりした気持ちで正月を迎えられそうです.

2010年12月29日水曜日

超音波ガイド神経ブロックの穿刺法(1)


超音波ガイド神経ブロックで針の穿刺方法に平行法(In-plane approach)と交差法(Out-of-plane approach)があります.教科書的には,平行法は初心者向けという記載がされていますが,これはとんでもない誤解です.「超音波ガイド神経ブロックを今から開始しようという人は是非,平行法を身につけるべきだ.」と捉えるべきです.平行法は血管,神経などの重要構造物と針との位置関係が一目瞭然なので,手技の安全性を保証してくれます.しかし,如何せん針全体を描出できるようになるまでに多大な労力を要します.決して,初心者が容易に身につけられる穿刺法ではありません.講習会で講義をしにいくと,平行法は面倒だから交差法を選択しているという麻酔科医が意外と多いです.平行法の本質を分かっていないからだと思いますが,それ以上に危険な交差法を安易に選んでいることに気付いてほしいです.平行法について,しばらく話をしていこうと思います.

締めの仕事は外科的気道確保

 麻酔科医として今年最後の仕事は,週一回のバイトでいく関連病院での麻酔の仕事でした.手術が終わり,後輩の麻酔科医と談笑していたところに,病棟から気管挿管ができないという緊急コールがありました.患者さんは大柄の体型で,救急医がすでに何度も気管挿管を挑戦したようで,咽頭の浮腫も強く,口腔内も出血を起こし吸引を行っても視野がとれない状況でした.幸いにもマスク換気はまだ可能でした.持ち込んだDAMカートからファイバー挿管,エアウェイスコープを取り出し,気管挿管を試みましたが全くオリエンテーションがつきませんでした.強い浮腫のために喉頭蓋がどれなのかさえ分からなかったのです.しかし,次第にSpO2が80%以下に,マスク換気も難しくなってしまいました.SpO2が回復しなくなってきたので,輪状甲状靱帯穿刺を行う決断をしました.ミニトラックを使って輪状甲状靱帯を穿刺し,アンビューで酸素を送気することで,SpO2は99%に上昇しました.気道を確保した段階でエアウェイスコープで舌根を持ち上げつつ,ファイバー挿管に再チャレンジしたところ,それまで,浮腫で埋もれてしまった喉頭蓋がミニトラックから送気される酸素によって持ち上がり,喉頭口から酸素による泡が噴出するのが観察できました.これを頼りに無事に気管挿管も行えました.
 咽頭後頭の浮腫が強くなってしまった状況での気管挿管には,輪状甲状靱帯穿刺から送気した酸素の逆噴出をガイドにすることができるのです.麻酔科医は気道確保のプロとして,他科の医師が再三行って気管挿管できなかった状況で緊急コールを受けます.その時には,すでに事態が深刻になっていることが多々あります.外科的気道確保を最後の手段と考えず,経口気管挿管を行うための補助として使用できることを知っておくことも重要だと思います.同様の報告が下記の症例報告に載っています.

Percutaneous transtracheal jet ventilation as a guide to tracheal intubation in severe upper airway obstruction from supraglottic oedema. Br. J. Anaesth. (May 2005) 94(5): 683-686

名古屋大学超音波ガイド神経ブロック教育プログラム

 実は名古屋大学医学部附属病院麻酔科では超音波ガイド神経ブロック教育プログラムというものを行っています.3ヶ月から6ヶ月の研修で,手術麻酔およびペインクリニックで行う体幹の超音波ガイド神経ブロックを中心に学んでいただきます.四肢の神経ブロックは主に僕が出向する関連病院で行います.下肢では超音波ガイドだけではなく,神経刺激ガイド 腰神経叢ブロック&傍仙骨アプローチ坐骨神経ブロックやプロポフォールとケタミンを使った鎮静方法も学んでもらいます.実習期間を3ヶ月以上としたのは,手技だけ学んでも駄目だからです.超音波ガイド神経ブロックの準備,全身麻酔にどう取り入れるか,術後の注意点まで考えると3ヶ月は必要です.実習のメリットは実習者の手技と僕の手技を比較できることです.平行法における針の描出については一緒に手技をしながら画像を比較してみないと,自分の手技が未熟であることに気付くことができません.
 現在,山形からK先生が3ヶ月の実習に来ています.名古屋大学に来るまでは全く超音波ガイド神経ブロックをやったことがなかったそうですが,今では胸部傍脊椎ブロックのカテ入れもできるようになってきています.K先生が2011年2月半ばまで実習予定ですが,その後は空きがあります.いつでもご連絡いただければ受け入れ可能です.3ヶ月は無理だよという先生でも,一週間程度の見学や実習も随時受け入れていますのでお気軽に連絡ください.

密かにブログを開設してみました.

 以前からブログというものを開設して,麻酔科医として様々な情報を発信してみたいと思っていました.これまで超音波ガイド神経ブロックで講演や本の執筆を依頼され,それをこなしてきましたが,本来は筆無精な自分がブログなど継続できるはずがないと考えていました.しかし,超音波ガイド神経ブロックに関連した質問をメールで受け,僕の勤務する大学病院への見学希望あるいは実習希望をされる麻酔科医がたくさんいらっしゃることがわかり,情報交換ができる窓口を作ったほうがよいだろうと思うようになりました.超音波ガイド神経ブロックに限らず,僕ならではの麻酔関連情報を発信できたらと思います.