2011年9月11日日曜日

手術中の痛みは取らないといけないか?

昨日の東海北陸支部地方会でレミフェンタニルのメガドーズ投与を主体にmultimodal analgesiaをすれば,術中の侵害刺激を押さえ込み,早期離床と早期経口摂取が可能になるかもしれないという具体例をあげた講演があり,非常に興味深く拝聴しました.

麻酔科医によって麻酔方法はかなり違います.神経ブロックや麻薬の使用方法の話に対して,「全身麻酔中に痛みをとらなきゃいけないのか?」と質問があります.この質問をされる人の多くは,全身麻酔の鎮痛,鎮静,筋弛緩の3要素のコントロールこそが麻酔を維持するうえで重要であると主張されます.ただ,その主張にも幅があり,鎮痛主体に適切に鎮静を維持する麻酔科医もいれば,鎮静主体で区域麻酔や麻薬などほとんど使用しない麻酔科医もいます.

僕自身のこの質問に対して,どう答えているかというと・・・全身麻酔中に痛みはあってはならない.

なぜなら,痛み(痛覚)というのは,侵害刺激が末梢神経,脊髄視床路を通り,大脳皮質へ大脳辺縁系に伝わって,人が「不快」と認識することで生じる感覚です.つまり,全身麻酔中に痛みがあるということは,患者が術中覚醒していることが前提となります.適切な鎮静レベルが維持されていないわけです.

この質問は,正確には「術中の侵害刺激を押さえ込まなければならないか?」ということです.侵害刺激は神経系を介して伝達される以外に,炎症性サイトカインなど循環系を介して伝達されます.よって,区域麻酔だけしても痛覚過敏は抑えられません.それがmultimodal analgesiaが推進される理由です.preventive analgesiaという概念があり,これは慢性痛への移行を予防するために作られた概念です.痛覚過敏の形成期と再燃期に,侵害刺激をしっかりと抑制することが,急性痛を慢性痛にしないために重要ということです.術中に侵害刺激を押さえ込むべきかの議論は今まで,急性痛を慢性痛にさせないという土俵で使われてきました.

夢のような鎮痛法として紹介される硬膜外麻酔自身,そのほとんどは鎮痛不充分でソセゴン&アタPを打たれ(ある意味,multimodal approach?),時に血圧低下で中止され,その恩恵を預かる患者はごく一部です.レミフェンタニルのメガドーズ投与が術中の侵害刺激を完全に押さえ込み,それが患者の早期離床,早期経口摂取につながるかは検証結果をもう少し待たなければならないのだと考えます.

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