2011年1月7日金曜日

Palm終焉

 名古屋大学附属病院手術室の麻酔器にはpalmが備えられており,麻薬(フェンタニル)の薬物動態シミュレーションができるようになっています.これは僕がこちらに移動した折,教授に提案して備えて頂いたものでした.毎日,毎日palmをみんなが使いつづけ,あるものは壊れ,あるものはコードが断線して充電できなくなり,とうとうボロボロの状態になってきました.
 palmは,研修医の先生達にたくさんのことを教えてくれました.手術の痛みを抑えるのに大切なのはフェンタニルの総投与量ではなく,フェンタニルの効果部位濃度であること.フェンタニルの総投与量は,投与中止後の効果部位濃度の低下する速度を規定すること.同じ強さの痛みでも患者さんによって必要なフェンタニルの効果部位濃度は異なること.今では,研修医の先生達は何も臆することなく,患者さんに手術による痛みを経験させないためにフェンタニルを投与し続けます.時に総投与量は10μg/kgを超えます.僕が研修医の頃,4時間の手術でフェンタニルをたった200μg投与しただけで指導医が「患者の呼吸が病棟で停止したらどうするんだ.」と怒鳴りました.
 palmによる薬物動態シミュレーションは,それまでの「手術室を生きて出て行けばOk」とした危機管理学的な手術麻酔から「快適な麻酔」という質が求められる手術麻酔への変革をもたらしました.そんな時代の立役者palmもとうとう終焉を迎えます.大学の電子麻酔記録システムに薬物動態シミュレーションソフトが組み込まれ,palmは4月を目処に不要になるということでした.palmに合掌.

1 件のコメント:

  1. Palm、我が家はまだ1台目ですが元気に生きてますよ。レミフェンタになってから充電をこまめに気をつけているだけで使っていませんが・・・先日例の局麻の開頭で久しぶりに役に立ちました。

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