ご存知ない方もいるかもしれませんが,僕はマイクロコンベックスプローブを使った超音波ガイド星状神経節ブロックを考案し、2007年にAnesthesia & Analgesiaに報告しました.今でも覚えているのは,カナダで開催された超音波ガイド神経ブロックに関する国際シンポジウムに出かけて行ったときに,突然,Facultyのひとりに呼びかけられて「君がDr Shibataか?」と尋ねられ,「君はペインクリニックの世界を変えた.」と褒めていただいたことです.実はこのアプローチが誕生した裏には一人の女性の存在があることを皆さんはご存知でしょうか?
もともと超音波ガイド星状神経節ブロック自体は1995年にKapralがすでに報告していました.しかし,頸部に当てるには大きいリニアプローブを使っていること,針の最終到達ポイントの記載が曖昧であったことから普及するには至りませんでした.2005年当時,いくつかの論文から深頚筋膜の下で頚長筋内に局所麻酔薬を投与することがブロックを成功させる鍵であることを掴んでいました.しかし,超音波ガイドで針を刺入する方法が検討つきませんでした.そんなおり,当時,SonoSite Japanという超音波機器メーカーが「超音波ガイド神経ブロックは大きく手術麻酔を変えるかもしれない.」と踏んで,愛知医大麻酔科に話しを聞きに何度か来ました.同行されたスタッフのひとりで大石麻紀さんという女性が僕に「こんなプローブがあるんですけど,これで何かできないですかね.」と,偶然にも僕の机の上に置いていったのが小児の心臓・腹部超音波検査用のマイクロコンベックスプローブでした.当時,超音波ガイド神経ブロックに使用するプローブはリニアプローブと大きなコンベックスプローブの二つしかありませんでした.その晩,こんなプローブで何ができるだろうと思いながら,腕神経叢を見ようとプローブを頸にあてました.腕神経叢のオリエンテーションを付けるために,マイクロコンベックスプローブをC6レベルの頸部前面に軽く押し当てました.その瞬間,総頸動脈がC6横突起前結節より外側に牽引され,頚長筋とそれを覆う深頚筋膜が皮膚表面に近づくのが観察されました.マイクロコンベックスプローブを使った超音波ガイド星状神経節ブロックが誕生した瞬間です.
大石さんのおかげで従来の盲目的な手技に類似した穿刺で超音波ガイド星状神経節ブロックを実施することができ,局所麻酔薬を注入している途中でブロックの合併症を予測することが可能となりました.
何故,facultyが僕を褒めてくれたかというと,世界中の多くの医師が,SGBは良い治療であるが,危険な合併症があるために実施することを止めてしまっていたからです,盲目的手技の危険性を考慮すると,盲目的手技を身につける必要はないと思います.残念ながら,日本では未だに,盲目的手技のほうが良く効く気がすると言ってやり続ける人もいます.僕はロシアンルーレットのような危険な行為をし続ける気はありません.SGBは超音波ガイド法によって明らかにしていかないといけない部分がたくさんあります.より安全な手技でSGBを行い,明らかになっていない部分を明らかにしていけばよいと思います.
返信削除