2011年8月20日土曜日

困難症例における超音波ガイド腋窩静脈カテーテル挿入

右腋窩静脈
僕が解説する平行法による超音波ガイド腋窩静脈穿刺は,基本的には穿刺が難しい症例に対して行うことを前提にしています.それは我々がペインクリニック外来で他科からハイリスクな症例における鎖骨下穿刺を希望されるからです.主治医は,易感染性,出血傾向のある血液疾患,重症感染症によって脱水状態の患者さんに積極的な治療を行うために,できるだけカテーテル感染を減らそうと鎖骨下穿刺を希望されます.

提示した腋窩静脈は皮膚からの浅い位置を走行していますが,重症感染症のために脱水が強く,完全に腋窩静脈が虚脱していました.咳をしたりした瞬間に,2.0 mm程度拡張する程度です.
右腋窩静脈.上の写真のシェーマです.咳をしてようやくこの程度に拡張.

この腋窩静脈穿刺に関しては,CVレガフォースを選択しました.従来の穿通力のない穿刺針を使う場合,Tentingする腋窩静脈を針先ですくい上げながら穿通させる技を使います.この症例では腋窩静脈から胸膜までの距離が5.0 mm程度しかないために,この技を使えません.穿通力がある針で,tentingを起こさせずに腋窩静脈内に針先を留置させることが必要です.加えて,ここまで虚脱した腋窩静脈にpigtailのカテーテルを挿入しようとしても,カテーテルが静脈壁に引っかかり挿入できないことがあります.以上の条件を満たすものはCVレガフォースしかないと判断したわけです.

このような難しい症例では,一連の手技がリアルタイムに評価できるように,プローブ操作と穿刺を行う術者と血液逆流の確認とガイドワイヤー挿入を行う術者の二人で手技を行うようにしました.立ったまま手技を行うことも決してしません.体が不安定であれば,針先のコントロールが効かないからです.二人とも座り,穿刺をする人は脇をしめ,両肘をテーブルの上に乗せいて固定します.針の操作は指と手首で行う感じ,ちょうど脳外科医の手術操作と同じ感覚です.

次に重要なポイントは,どこにむかって針を刺入していくかです.針の刺入経路を穿刺前に頭の中でイメージしておくことが大事です.この症例では,第一肋骨に向かって穿刺すれば気胸を回避できます.時々,膨らむ腋窩静脈を描出しつつ,針を第一肋骨に向かって刺入していきました.完全虚脱した腋窩静脈の手前まで刺入して,一旦針を止め,腋窩静脈を穿通させるチャンスを伺いました.腋窩静脈が膨らんだ瞬間に針を進め,腋窩静脈を貫きました.血液の逆流が確認できたので,ガイドワイヤーを挿入し,無事に手技を終えました.
虚脱した腋窩静脈にガイドワイヤーを挿入したところ
CVレガフォースの欠点を指摘してきましたが,浅い位置にあって中心静脈が虚脱している状況に対しては,とても有用だと考えています.また,このような状況に対して交差法は安全性が確保できないこともご理解いただけると思います.

2 件のコメント:

  1. 困難な症例ご苦労様です。
    私が腋窩を穿刺するのは外科の先生がIVHボート留置を試みて入らないという先生同様のケースです。先生ほど画像の読みができないのでこのこの感じだと交差法で行うと思います。
    ガイドワイヤーのJがいいかストレートがいいかはいろいろ議論があると思いますが、セルジンガー法によるメリットを考えるとストレートがいいと思っています。レガフォースもJにしろという声があるそうですが、、

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  2. YASU先生コメントありがとうございます.レガフォースもtentingはしますが,tentingの程度が違いますよね.肋間に針先を刺入したときに,直ぐ下には胸膜があるので,tentingした際の安全域が非常に少ない.さらに,腋窩静脈は吸気で完全に虚脱してしまう状況です.交差法では,針先を描出できている保証がないこと.tentingした静脈の変形が基に戻ることで静脈壁貫通を判断しなければならないが,それが虚脱した腋窩静脈では判断が難しいこと.これが穿刺困難症例での交差法の限界だと感じています.あくまで腋窩静脈がしっかりと張っている患者で従来法では穿刺できなかったという場合にしか,交差法は向いてないと感じます.

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