2011年12月6日火曜日

体幹の神経ブロックを考える

四肢の神経ブロックがそれ単独で手術麻酔を貫徹できてしまう一方で,体幹の神経ブロックは全身麻酔におけるmultimodal鎮痛の一要素にすぎません.麻薬,非ステロイド性抗炎症薬,ケタミンなどを上手に使いこなせないと,神経ブロックの良は自分自身だけでなく,患者も外科医も理解してくれません.当院で,「神経ブロックは麻酔科医の自己満足」と外科医に揶揄させてしまったことがありました.僕が神経ブロックの手技だけをここで教育してしまったことが原因で,体幹神経ブロック併用全身麻酔で内臓痛コントロールの話をしませんでした.
麻薬に関しては,レミフェンタニルに頼りすぎている現在,フェンタニルやモルヒネを使いこなせない若手が増えています.手術が終わると,患者が覚醒する前に麻薬伝票をさっさと集計するものもいます.薬物動態シミュレーションを使って,フェンタニルの効果部位濃度をどのあたりで維持し続けるか考ええ,手術終了後もフェンタニルを投与しつづける若手の姿を見なくなりました.レミフェンタニルでは,鎮痛をもたらすより遙かに低い効果部位濃度で呼吸抑制を起こします.フェンタニルもモルヒネも,鎮痛をもたらす効果部位濃度は呼吸抑制を起こす効果部位濃度と近いので,呼吸数を見ながら適切な効果部位濃度を把握することができます.しかし,レミフェンタニルを手術終了後も投与し続けてしまうと,全く自発呼吸が出現しないために,フェンタニルの投与もやめてしまい,結果として,フェンタニルの効果部位濃度も鎮痛に必要な至適濃度より遙かに低下させてしまいます.僕自身は,フェンタニルやモルヒネの至適効果部位濃度を評価するために,覚醒の30分前にはレミフェンタニルを中止するようにしています.

3 件のコメント:

  1. snack_eriko19772012年5月12日 21:27

    いつも読ませてもらっています。
    長崎大学で麻酔修行中です。
    先生の書かれているように、閉創前からレミフェンタニルを終了してフェンタニルに切り替え、
    自発呼吸を見ながらフェンタニルを追加する方法をトレーニングしています。
    今、悩んでいる点が2点あって、いろいろ模索していますが、うまくいきません。
    一つは、終刀後に体を動かすようなことをしているときにむせてしまうことがあること。
    もう一つは、覚醒時にむせてしまうことがあること。です。
    何か、コツがあれば、教えていただければ幸いです。
    よろしくお願いします。

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  2. フェンタニル主体の麻酔をしていて,覚醒時に,患者が挿管チューブや気管吸引の刺激で激しくむせる場合は,フェンタニルの効果部位濃度を下げすぎてしまっています.あくまでフェンタニル効果部位濃度は維持して,吸入麻酔薬やプロポフォール濃度を下げてください.

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  3. snack_eriko19772012年5月15日 20:53

    ありがとうございます。吸入麻酔薬やプロポフォールの濃度を下げていきながら、呼吸回数を見ながらフェンタニルを追加していってるのですが、覚醒時にむせ込んでしまうことがあります。ご指摘のとおり、術後鎮痛としてフェンタニルの高い効果部位濃度が必要な場合、それくらいのフェンタニル濃度が維持できていれば覚醒時むせることはないようです。反対に、創部痛がほとんどなかったり、ブロックや硬膜外併用していたりして、フェンタニルの高い効果部位濃度が必要でない場合、覚醒時にむせることが多いようです。そういう場合は、フェンタニルだけで穏やかな覚醒は難しいのかなあ、と思ったりしていました。自発呼吸をださずにレミフェンタニルを残して覚醒させるか、むせるのは仕方なし、とすぐに抜管できる用意をしておくか、と。穏やかな覚醒を日々目指していますが、難しいです。ありがとうございます。

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