杏林大学のY先生のブロック研修が6月で終わりました.1ヶ月というのは,とても短く,いろいろ経験してもらうことはできましたが,手技を達人レベルまであげるには至りませんでした.
超音波ガイド神経ブロックの平行法による手技は射的競技に似ています.例えば,アーチェリーでは,体の各部分を固定して,的をねらい,矢を射ります.矢を放った瞬間には,矢が的に当たるかどうかの勝負はすでについてしまっています.同様に,平行法では,走査面上にある正しい刺入点を選んで穿刺しなければ,針は描出しません.このような手技になるためには,手術台や超音波画像の高さ,超音波装置の配置にこだわり,体の固定に拘らなければならない.そうすると絶えず同じ姿勢で同じような穿刺になってきます.そして,プレスキャンは画像の確認だけではなく,自分の穿刺する姿勢を確認することになります.
この一見,手技に関する哲学に思えることの重要性に,彼がようやく気付いてくれたのが最後の週でした.ベットの高さや超音波装置の配置を気にせずに,右利きの彼が右手でプレスキャンをしていることを何度か注意しました.結局,そのプロセスをうやむやのまま,手技を開始し,針の描出が安定せず,僕が手技を代わりに行うことがしばしばありました.しかし,最後の週で,この一番重要な奥義を理解くれたので,Y先生は,研修終了後に一人でも充分にブロックの技術を向上させていくと思っています.
Y先生を最後に,このブロック研修プログラムは終了とします.当初は関西方面で超音波ガイド神経ブロックで問題が起きていることを耳にして,教育者を育てなければ思い,このような教育の場を提供することを教授に許可のもと,開始しました.国内における末梢神経ブロックの教育が成熟してきたことをうけ,そろそろ自分や自施設のための仕事をしようと思ったからです.名古屋大学における教育プログラムが,新潟大学,旭川医科大学,鹿児島大学,昭和大学横浜市中北部病院の医療に貢献できたことは,とても光栄なことだと思っています.このプログラムに参加していただいた若手麻酔科医,そして手術件数が全国的に増加している中で,中心的役割を果たす若手を名古屋大学に派遣することを許可して頂いた各施設の医局長および教授の先生方には大変,感謝しています.長期の研修プログラムは終了となりますが,見学や1日のブロック研修は引き続き,受けていくつもりでいます.