2012年5月26日土曜日

S-nerve vs Venueどっちを買うべきか?

そんな質問を受けました.答えは明白です.S-nerveです.Venueは使用に耐えません.GEは超音波機器メーカーとしての姿勢を変えずに今まで,超音波診断装置を売り続けました.超音波機器メーカーとしての診断装置を作るノウハウをフル動員して,作ったから使ってみろという姿勢でした.

一方,ソノサイトはどうでしょう?2005年,ソノサイトの開発最高責任者のJames M. Gilmoreが僕の外来にきました.180を使いながら,SGBや大腿神経ブロックをしている無名の僕に,僕が何が見たいのか,180の画像では何故,駄目なのか尋ねてきました.僕は超音波ガイド下神経ブロックに必要な画質はなにかを大腿神経を描出しながら説明をしました.ソノサイトは,世界的に超音波ガイド下神経ブロックが普及する以前から,超音波ガイド下神経ブロックに注目し,超音波治療装置を作りはじめていたわけです.

ご存知のとおり,2005年当時,国内で購入できる携帯型超音波診断装置はソノサイトのMicroMaxxとGEのLOGIQeでした.GEは摘みをいっぱいつけ,MicroMaxxより画質がきれいでした.みんなが当時,LOGIQeのほうが画質がいいんじゃないかと小声で話していました.しかし,超音波治療装置を開発し続けたソノサイトは,MicroMaxxの画質をあっという間に,LOGIQe以上にし,さらにM-Turbo,神経ブロックに特化したS-nerveを出しました.神経ブロックに必要な条件を揃えていました.

GEも携帯型で,より摘みのないVenueを市場に投入しました.ところが,GEは,ここで致命的なミスをします.Venueもまた超音波診断装置だったわけです.このあたり,GEの開発者と話しをしたわけではないので確かなことは言えません.しかし,画像をみて思うことは,GEは超音波ガイド下神経ブロックで,心臓や腹部内臓を診断するときと同じような画像を見せたらよいと考えていたと思います.心エコーなどは,構造物が沢山の点の集まりで構成される砂絵タッチな画質より,点と点の部分を計算処理して,つなげてしまって線として描出したほうが,より直視的に観察したような画像となるので,見た目,心臓の動きがわかりやすいわけです.GEの超音波診断装置をみるとわかりますが,極端に画像処理されて,油絵のような画質です.その結果,1-2ミリの神経,深在性の非常にかすかに映る筋膜や神経が描出されないのです.S-nerveやM-turboで見える物が,GEのLOGIQeやVenueでは全く見えません.

実は,ソノサイトも極端に油絵タッチな画像に方向変換しています.機器のバージョンを上げる度に見えていた神経が見えなくなり,それをフィードバックすると直してくる.それを繰り返しています.どっかで超音波診断装置を作りはじめないかと心配しています.

GEに駄目だしをしましたが,そのGEが2005年のころのソノサイトに姿を変えつつあります.これはGE本社というより,GEの日本スタッフの変化です.日本で独自に物作りをしようという考えのようです.今後,売りに出されるGEの機器には注目すべきかもしれません.少なくとも,名古屋大学の手術室に使われずに眠っているような超音波診断装置LOGIQeを売るようなことはしないのではないかと思います.というか,期待しています.

2012年5月25日金曜日

Posterior TAP論争の決着か!

TAPブロックの元祖,McDonnellらはposterior TAPブロックの皮膚分節遮断域がT7からL1と主張しています.これに対して,僕やHebbarはT10からL1,つまり下腹部しか遮断できないと主張しました.このposterior TAPブロックの守備範囲論争にとうとうが決着がつくような気がします.

Regional Anesthesia and Pain Medicine 2012;37:294-301で,posterior TAPブロックの局所麻酔薬の拡がりをMRIを使って,経時的に検討しています.片側には0.375%ロピバカイン30mlでposterior TAPブロックをします.もう片側にはposterior TAPブロックとsubcostal TAPブロックを0.375%ロピバカイン15mlで行っています.

注目すべきなのは2つ.subcostal TAPブロックは半月線より内側で刺入している点です.そしてもう一つは,ここでいうTAPブロックは「点で捉えるTAP」であること,つまり,腹横筋膜面を針先が貫いたら,そこで局所麻酔薬を注入してしまいます.腹横筋膜面の中で針先を進めていくような「面で捉えるTAP」ではないということです.

結果としては,三時間かけて局所麻酔薬は腹横筋膜面の中を拡がっていくことが確認されました.
30mlの大量の局所麻酔薬を注入しても,posterior TAPブロックでは,半月線までしか拡がらない.
一番,広く局所麻酔薬が拡がったのは,posterior TAPブロックとsubcostal TAPブロックを組み合わせたとき.しかし,二つの局所麻酔薬の拡がりがどこかでつながることはない.

点で捉えるTAPブロックでは,どうやら半月線が堤防の役割を果たしていると考えて良さそうです.ただし,これはあくまで超音波ガイド下TAPブロックの話です.つまり,前腹壁で局所麻酔薬が拡がっていることを前提にしています.もし,元祖,盲目的TAPブロックはかなり背部よりで刺入します.よって,ひょっとすると局所麻酔薬が前腹壁でなく,後腹壁で拡がっている可能性があります.そうなると,また別の話になってきます.

2012年5月24日木曜日

インタビュー

インタビューを受けました。テレビではありません。学会用です。案外、恥ずかしいもんですね。カメラに向かって話すのは苦手だという先生がいましたけど、その気持ちがわかりました。あれれっ?うしろの超音波診断装置が違うんじゃんじゃないの?と気づかれた人,あなたは洞察力があります.浮気ではありません.良い物を作りたいという技術者を支えたい,それが僕の考えです.えっ?頭の毛がボサボサ?仕方ありません.先週金曜日からほとんど寝ずに原稿を書いていましたから,身だしなみという概念がなくなっています.へっ?靴を履いてないじゃないかって?床がキュキュと音がするから,脱いでいたんです.はっ?両手で股間を押さえてるって!仕方ないじゃないですか,手振りを交えてしゃべると,マイクに雑音が入ると言われちゃったんです.

GE,がんばってますね.

先日のブログで,針を強調して描出させる機能について触れました.そしたら,GEさんが突然,GEの針を強調して描出させる機能を見せてくれました.以前,使ってみたときは,そのリアルタイム性のなさに,こんな危険なハイテク技術は使えないと思いましたが,昨年からGEが超音波診断装置に搭載させたものはリアルタイムでしかも,強調して針を描出させる範囲が広い.これなら充分に末梢神経ブロックに使えると考えます.というか,名古屋大学はLOGIQeを早い段階で買いすぎた.今,LOGIQeは手術室の物置に誰にも相手にされず,眠っています.それくらい全てが使い物にならない.最新のLogiq Eなら使ってみてもよいかも.そう思っていたところに,「もうLOGIQeじゃ,なんも見えないから,M-turboもってきてもらっちゃった~」とichiko先生が麻酔科控え室に入ってきました.神経ブロックに必要なものも分からずに,LOGIQeを売っていたGEは,ユーザーに不憫な思いをせていることを反省していただきたいです.摘みをいじれば,神経ブロック用の画像になると考えていたら,大間違い.どんな新しいものを,彼らが作るのか見守りたいと思います.

人に優しくなれる方法を知っていますか?

人は自分の弱さを知ったときに,はじめて人にやさしくなれます.

先々週までのメール:pnbsiva先生,原稿を至急,送付してください.

先週はじめのメール:pnbsiva先生,原稿を大至急,送付してください.
先週のペインクリニック外来の張り紙:原稿を大至急送ってください.

先週末の電話:pnbsiva先生,5月21日朝9時までに原稿を送付してください.

今週月曜日のメール:pnbsiva先生,原稿が届いていまけど.いつになりますか?(丁寧語ゼロ)

先週の水曜日に風邪を引,風邪が直らないまま,先週の金曜日からほとんど睡眠をとらずに書き続けました.手術室麻酔,ペインクリニック外来,当直2回をこなしながら・・・,最後は自分が寝ているのか,原稿を書いているのか分からないトワイライトゾーンまで体験した.そして,先ほど,ようやく脱肛,いや脱稿.今回ほど,筆が進まない状況は、今までなかった.借金地獄の気持ちがよく分かった.取り立てられる恐怖,よく理解できた.この失敗で,きっと,僕は人に優しくなれる.誰しも,完璧にスケジュールをこなせる人などいない.調子が良いときもあれば,悪いときもある.