2012年3月31日土曜日

閉鎖神経ブロックはクラスター爆弾方式からトマホーク方式へ

超音波ガイド閉鎖神経ブロックはこれまでいくつものアプローチが紹介されてきました.僕自身はFujiwara's approachを好んでやってきました.このアプローチはすぜに閉鎖神経が前枝と後枝にわかれ,異なる位置にいます.前枝は恥骨筋-長内転筋-短内転筋でできるベンツマークの中心,後枝は短内転筋-大内転筋の間にいます.また,各枝からも細い枝がでており,ひとまとめにブロックすることは不可能でした.クラスター爆弾で周囲に散らばる敵をやっつけるように,針を繰り返し刺しなおしては,筋間に局所麻酔を注入する,これを繰り返さなければなりません.

しかし,Ahmad Muhammad Tahaが報告したアプローチはより近位のアプローチです.ただ,Fujiwara's approachのプローブを45°尾側に傾けて,超音波ビームを頭側に向けるだけ.これで恥骨筋の下に外閉鎖筋が出てきます.恥骨筋と外閉鎖筋の筋間には前枝後枝が一緒にいます.そのため,ピンポイントで前枝後枝を同時に遮断することができます(100%).閉鎖神経ブロックもクラスター爆弾方式からトマホーク方式に変わったと言っても過言ではありません.

ちなみにAhmad先生はムスリムだと思われます.ムスリムは自分の名前-父親の名前-祖父の名前という形で本名を名乗ります.よって,彼の父親はMuhammadさん,祖父はTahaさんなんだとわかります.どうして,そんなことを知っているか?今,イラクの麻酔科医を受け入れるための書類を作っているからです.

2012年3月30日金曜日

藤子先生のブロック数 新記録達成!!

昭和大学横浜市北部病院の藤子ちゃんこと,F先生のブロック数です.傍脊椎ブロック,肋間神経ブロックは片側で1例と数えています.TAPブロック,腹直筋鞘ブロックは1患者1例として数えています.blindは体表ランドマーク法,NSGは神経刺激法,記載のないものは超音波ガイド法です.

プログラム開始当初は非常にゆっくりとしたペースで,まずは末梢神経ブロックを組み込んだバランス麻酔を知ってもらうことからはじめました.僕自身は,350例くらいの手技が行えたらよいだろうと考えていました.ところが,蓋を開けてみると,彼女は,合計で475例の超音波ガイド下手技を行っていました.鹿児島大学YT先生の数を抜いた.彼女の場合,全くの初心者からのスタートで,僕の言葉足らずのところもあり,レベルアップに時間がかかりました.はじめは勝負画像にならない画像で穿刺をしてしまい,その後で針を出そうとする癖がありました,また刺入途中に針を曲げてしまう癖もありました.症例数を増やして,経験数を増やすことで,そうした穿刺も徐々に減り,最終日の浅腓骨神経ブロックでは,一発で勝負画像に針を描出させ,ミリ単位の非常に繊細な運針でブロックをした姿をみて,僕は「ヨシ!合格」と太鼓判を押しました.これで胸を張って、北部病院に送り返すことができます.彼女自身は,最後の1ヶ月,僕から厳しく注意を受けたので,自分に進歩がないように思っているかもしれません...厳しすぎたかな???


胸部傍脊椎ブロック 79例(単回注入21例,カテーテル挿入58例)
胸部傍脊椎ブロック (blind) 2例
腹直筋鞘ブロック 25例
TAPブロック 72例(Subcostal 35例,Posterior 37例)
腸骨下腹神経・腸骨鼠径神経ブロック 15例
陰部大腿神経大腿枝ブロック 8例
肋間神経ブロック 4例

腕神経叢ブロック
斜角筋アプローチ 5例(単回注入 4例,カテーテル挿入 1例)
鎖骨上アプローチ 5例(単回注入 1例,カテーテル挿入 4例)
鎖骨下アプローチ 9例(単回注入 8例,カテーテル挿入 1例)
腋窩アプローチ 2例

腰神経叢ブロック 23例
大腿神経ブロック 25例(単回注入 22例,カテーテル挿入 3例)
腸骨筋膜下ブロック 2例
閉鎖神経ブロック 17例
外側大腿皮神経ブロック 13例

坐骨神経ブロック
傍仙骨アプローチ(blind) 19例
殿下部アプローチ 1例
前方アプローチ 1例
大腿中間アプローチ 1例
膝窩部アプローチ 16例(単回注入 15例,カテーテル挿入 1例)
浅腓骨神経ブロック 4例
深腓骨神経ブロック 4例
脛骨神経ブロック 4例

星状神経節ブロック 29例
頸椎椎間関節ブロック 9例
(頚神経後枝内側枝ブロック熱凝固含む)
頸神経根ブロック 2例
舌咽神経ブロック 1例
眼窩下神経ブロック(blind) 2例
前篩骨神経ブロック(blind) 2例
大後頭神経ブロック 2例
腰椎椎間関節ブロック 8例
肩関節ブロック 3例
膝関節ブロック 2例
浅頚神経叢ブロック 9例
深頚神経叢ブロック 7例
仙骨硬膜外ブロック 1例
スカルプブロック(blind) 20例

腋窩静脈カテーテル留置 20例

藤子ちゃんのプログラム終了

藤子先生が一月に僕のところに来て、三ヶ月。あっという間に時間が過ぎました。超音波ガイド下ブロックの経験ゼロからのスタートで、乗り越えるべき課題がたくさんありましたが何とか、克服してくれました。次からは地元で一人でブロックをしていくことになります.僕が教えた内容が昭和大学横浜市立北部病院の麻酔に貢献できると幸いです.藤子先生が,このブロック研修で唯一,地元に持ち帰れないものがありました.それは亭主になる人でした.残念orz.



2012年3月27日火曜日

肋間神経ブロック前方アプローチ

下位レベルの肋間神経は肋骨弓を横切って,上腹壁に分布します.よって下位肋間神経をブロックすると上腹部開腹術の鎮痛になります.下位肋間神経を前胸壁でブロックする方法は2009年に僕が解剖死体研究をもとに検討し,日本麻酔科学会学術集会で報告しました.

この手法は,針先が壁側胸膜に接するところまで刺入するので,平行法の高い技術が要求されます.僕の神経ブロック教育プログラムでも最後の方にしかやらせていません.針を描出させる能力のないものが行うと,胸膜穿刺によって気胸を起こす危険性が高いからです.つまり,平行法がしっかりとできるかの試金石にもなります.昨日,藤子先生に肋間神経ブロック前方アプローチを開腹術でやってもらいました.多少のアドバイスはしたものの,見事に針を描出し,針先を壁側胸膜面にもってくる姿をみて,もう横浜の病院に戻っても大丈夫だろうと確信しました.

2012年3月25日日曜日

infraclavicular blockは1回注入でok,それでも・・・・

腕神経叢ブロック鎖骨下アプローチでは,内,外,後神経束が腋窩動脈周囲に描出されます.僕が始めて出会った鎖骨下アプローチの超音波ガイド法は各神経束に10mlずつ注入するというものでした.

Anesth Analg 2010;111:1325-27では腋窩動脈の背側に35mlをシングルショットする場合と15mlを腋窩動脈頭側に,20mlを背側に注入するダブルインジェクションを比較しています.それによると,オンセット,ブロック施行時間,刺入経路の数,ブロック成功率に有意な差があるとはいえませんでした.

Anesth Analg 2010;110:1480-5では,後神経束への1回注入と各神経束に注入する三回注入を比較しています.ここでも,ブロック施行時間に差があっただけで,成功率に有意な差はあるとはいえませんでした.

こうなると,自分が行ってきた三回注入法は時代遅れなのかもしれません.ただし,僕は3回注入法を辞める気がしません.なぜなら,後神経束に一気に針先を運ぶことが,針先の描出性の悪さのために難しいからです.超音波診断装置は二つの物質の音響インピーダンスの差でもって二つの隣り合う物質を違うものとして描出してきます.局所麻酔薬を刺入経路の途中で注入すると,音響インピーダンスの差が大きくなり,針先の描出性が上がるのです.小胸筋の下で薬液をいれ,そのまま内側神経束,あるいは外側神経束に薬液を拡げ,その後に後神経束にアプローチしたほうが遙かに安全にブロックが出来ます.