2011年4月30日土曜日

両側腕神経叢ブロック

腕神経叢ブロックで斜角筋間法は横隔神経麻痺のリスクがあります.最近は鎖骨上法でも横隔神経麻痺のリスクが指摘されています.僕は両側斜角筋間法で腕神経叢ブロックをしなきゃいけない状況になったらどうしようと思っていたことがあります.しかし,外傷の受傷機転を考えたら,まずはそんな状況はありえない.両腕を骨折するのは,転倒時に両手を出すからであって,その時は前腕部分で骨折がおきる.転倒して肩から落ちたときだけ上腕骨外科頚骨折などの肩周囲の骨折が起きます.その時は反対側の肩はまずは無事.よって,両側斜角筋間法で腕神経叢ブロックをしなきゃいけない状況はありえない.

2011年4月29日金曜日

名古屋大学超音波ガイド神経ブロック教育プログラム,Y先生の1ヶ月

新潟大学のY先生が教育プログラムに参加して,1ヶ月が経過しました.名大に来る前にUSG-PNBの経験はあったものの,経験数は31ブロックと少ない状況でした.実質20日で145ブロック+1腋窩静脈カテ挿入をこなしました.超音波ガイド法だけでなく,盲目的手技,神経刺激ガイド法も身につけておくとよいものは習得してもらうようにしています.

当初認められた手技的な問題点,特に針先の描出能力が改善され,安心してみていられる手技が行えるようになっています.あとは「プローブに針を合わせる」穿刺に磨きをかけて欲しいと考えています.持続腕神経叢ブロックが全く経験できていないので,次ぎの2ヶ月で経験できればと考えています.硬膜外ブロックが禁忌となる開腹術,開胸術で如何に末梢神経ブロックを行うか,僕のノウハウを教えてきたので,次ぎの2ヶ月はどのブロックをどのタイミングで行うか,プランニングしてもらう予定です.

(NSGは通電刺激,blindは盲目的手技,他は超音波ガイド法です.腹横筋膜面ブロックと腹直筋鞘ブロックは1症例を1つとカウントしています.)
胸部傍脊椎ブロック      1回注入 11
胸部傍脊椎ブロック  カテーテル挿入 15
腹横筋膜面ブロック      1回注入 27
腹直筋鞘ブロック        1回注入 14
腰神経叢ブロック(NSG)   1回注入 9
大腿神経ブロック        1回注入 12
坐骨神経ブロック
 傍仙骨部アプローチ(NSG) 1回注入 8
 傍仙骨部アプローチ(USG)  1回注入 2
 臀下部アプローチ      1回注入 2
 膝窩部アプローチ      1回注入 4(うち小児1)
 膝窩部アプローチ  カテーテル挿入 2
 膝窩部高周波熱凝固 2 
閉鎖神経ブロック 3
外側大腿皮神経ブロック 2
陰部大腿神経大腿枝ブロック 3
腕神経叢ブロック
 斜角筋間アプローチ1回注入 2
 鎖骨上アプローチ1回注入 2
 鎖骨下アプローチ1回注入 2(うち小児2)
浅頚神経叢ブロック 2
深頚神経叢ブロック 3
星状神経節ブロック 5
頸椎椎間関節ブロック 1
腰椎椎間関節ブロック 10
眼球周囲ブロック(blind) 1
Scalp block(blind) 1
腋窩静脈中心静脈カテーテル挿入1

超音波ガイド神経ブロックの考え方(6) とにかく触れ!

すべての痛みの伝達経路を遮断する必要はなく,どんどんブロックを取り入れるべきだという話をしました.局所麻酔薬がsystemicにも作用することを考えると,しないよりした方がいいと思います.実際にリドカインの持続静注も術後鎮痛として有効性が示されています.

痛みの伝達経路の一部しか遮断していない場合,フェンタニル効果部位濃度を上手に調節してこないと,患者さんは大なり小なり痛みを感じて覚醒されます.その時に創部を触ってみるとよいでしょう.ブロックが効いている範囲を触っても痛みを感じませんが,ブロックの効いてないところを触ると顔をしかめます.下肢の手術で,伏在神経領域に皮弁をしたなと思って,手術終了後に大腿神経ブロックをして覚醒させたときに痛がった場合,大腿神経領域をそっと,つねってみます.それで患者さんがしかめっ面しなければブロックは効いていて,坐骨神経領域に手術創が及んでいると理解できます.

開腹術でも同様です.内臓痛でないと判断した場合には,手術創を丹念にピンポイントで押してみます.手術創の頭側で痛みを訴えるか,尾側で訴えるか,右側か,左側か,それを判断すればどこがうまく遮断できていないかわかります.

2011年4月28日木曜日

GE,ホッケーステック型プローブの開発に乗り出す

GEがホッケースティック型リニアプローブの開発に乗り出しました.小児の点滴,小児のUSG-PNB,頭頚部のペインクリニック領域での使用を視野に開発されたようです.プローブには,交差法でも平行法でも,どちらで穿刺してもプローブの中央が分かるようにラインが付いています.画質も以前のものより,格段と向上しています.GE特有の油絵タッチな画像には変わりがありません.

超音波ガイド神経ブロックの考え方(5):すべての痛みをブロックで遮断する必要はない

手術に超音波ガイド神経ブロックを導入するときに,痛み刺激の伝達経路すべてをブロックで遮断する必要はありません.伝達経路の一部でもよいから,ブロックしていきます.それが技術を身につける早道でもありますし,multimodal approachの一歩でもあります.

まずは,どんな末梢神経ブロックができるか考えます.それが痛みの経路を全て遮断するのか,一部しか遮断しないのかを解剖学的に考えるわけです.それにより,フェンタニルの使用量を考慮していきます.部分遮断の場合は,術中からフェンタニルの効果部位濃度を高く維持します.

完全遮断であるけれど,単回注入で終わる場合は,術中はそれほどフェンタニル効果部位濃度をあげる必要はなく,ブロックの効果が切れた時間帯に痛みを軽減できる効果部位濃度になるようにフェンタニル術後持続投与を調整します.

完全遮断で持続神経ブロックも行う場合も注意してください.腕神経叢ブロックのように術中も完全遮断,術後も完全遮断できるようなときは,術中術後にフェンタニルは不要です.術中にレミフェンタニルのみを投与して,PONVの発生をできるだけ抑えます.一方,腰神経叢ブロック&坐骨神経ブロック&持続大腿神経ブロックのように,術中は完全遮断であるが,術後は部分遮断というときには,持続大腿神経ブロックに加えてフェンタニル静注を併用しておく必要があります.少なくとも翌朝まではフェンタニルを投与しておくとよいと思います.

全体を通して,レミフェンタニルはそれぞれの状況に応じて増減して併用すればよいと考えます.
このように「まずはブロック,次ぎに麻薬」という方向性で考えていくと,どんな手術にでも何かしらブロックはできます.