2010年12月29日水曜日

締めの仕事は外科的気道確保

 麻酔科医として今年最後の仕事は,週一回のバイトでいく関連病院での麻酔の仕事でした.手術が終わり,後輩の麻酔科医と談笑していたところに,病棟から気管挿管ができないという緊急コールがありました.患者さんは大柄の体型で,救急医がすでに何度も気管挿管を挑戦したようで,咽頭の浮腫も強く,口腔内も出血を起こし吸引を行っても視野がとれない状況でした.幸いにもマスク換気はまだ可能でした.持ち込んだDAMカートからファイバー挿管,エアウェイスコープを取り出し,気管挿管を試みましたが全くオリエンテーションがつきませんでした.強い浮腫のために喉頭蓋がどれなのかさえ分からなかったのです.しかし,次第にSpO2が80%以下に,マスク換気も難しくなってしまいました.SpO2が回復しなくなってきたので,輪状甲状靱帯穿刺を行う決断をしました.ミニトラックを使って輪状甲状靱帯を穿刺し,アンビューで酸素を送気することで,SpO2は99%に上昇しました.気道を確保した段階でエアウェイスコープで舌根を持ち上げつつ,ファイバー挿管に再チャレンジしたところ,それまで,浮腫で埋もれてしまった喉頭蓋がミニトラックから送気される酸素によって持ち上がり,喉頭口から酸素による泡が噴出するのが観察できました.これを頼りに無事に気管挿管も行えました.
 咽頭後頭の浮腫が強くなってしまった状況での気管挿管には,輪状甲状靱帯穿刺から送気した酸素の逆噴出をガイドにすることができるのです.麻酔科医は気道確保のプロとして,他科の医師が再三行って気管挿管できなかった状況で緊急コールを受けます.その時には,すでに事態が深刻になっていることが多々あります.外科的気道確保を最後の手段と考えず,経口気管挿管を行うための補助として使用できることを知っておくことも重要だと思います.同様の報告が下記の症例報告に載っています.

Percutaneous transtracheal jet ventilation as a guide to tracheal intubation in severe upper airway obstruction from supraglottic oedema. Br. J. Anaesth. (May 2005) 94(5): 683-686

2 件のコメント:

  1. 症例報告、読んでみます!

    知識の他、どのタイミングで応援を呼び、どのタイミングで外科的気道確保に踏み切るか、の判断が出来るよう頑張りたいと思います。

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  2. AA先生,外科的気道確保に踏み切るタイミングは経験のあるなしで変わってくると思います.外科的気道確保の経験がない若手麻酔科医はギリギリになっての判断になってしまうのではないでしょうか.何よりも,その時にそなえてシミュレーションをしておくことが大事です.

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